2021年のルール変更でアドバンテージはレッドブルに移ったのか?

出典:

www.formula1.com

バーレーンのテストでは大きな疑問が生まれた。レッドブル・ホンダ RB16B は、メルセデス W12 よりも本当に速いのだろうか。最終日、フェルスタッペンは先頭に立ち、ハミルトンはその後方4番手、リアの不安定さに不満を漏らしていた。今年最初の Tech Tuesday では、Mark Huges が Giorgio Piola のイラストと共に、2021年グリッド上位の技術競争を一覧する。

今年のカットバックフロアのレギュレーションが、序列をミックスするのに関与しているのは明らかだ。メルセデスは目下、今月末のバーレーングランプリでの2021年シーズン開幕へ向け、問題の理解と解決に全力で取り組んでいる。

解説:2021年空力規則改訂

ローレーキのメルセデス対ハイレーキのレッドブル

レーキ角とは、車体の後方から前方にかけた車高の傾斜のことで、いくつかのチームは他よりもフロントに対してリアを持ち上げており、これを“ハイレーキ”と呼び、リアが低めの場合は“ローレーキ”と呼ばれる。

今にして思うと、フロア規則の変更により、ローレーキのメルセデスのほうが、ハイレーキのレッドブルよりも大きな影響を受けたと推測できる。しかしテスト前の段階では、それぞれのレーキ哲学に対してどう影響するのか、相反する仮説があり、各チームにはどちらが事実なのかを知るすべはなかった。自分たちの車のデータしか持っていないからだ。

一方の仮説では、ハイレーキ、即ち車体後方で空力をより大きく働かせているマシンは、それらの多くを失うことでより大きな打撃を受けるとされ、ローレーキの車は、動作環境に左右されず安定したダウンフォースを得られると考えられており、フロアの削減には寛容だと考えられていた。

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2021年に導入されたフロアのレギュレーション

もう一方の仮説は、ローレーキのメルセデスは、フロアの傾斜率の低さを長いホイールベースで埋め合わせており、フロア面積が大きい。フロア面積を多く失うため、大きな打撃を受けるというものだ。

アンダーフロアで発生するダウンフォースは、フロアが生成する負圧(ローレーキの車は少ない)と、その負圧が作用する床面積の倍数である。負圧の総量(単位面積当たりの負圧と面積の積)が大きければ、ダウンフォースは大きくなる。

高速走行時、レーキ角が異なる両者の違いは少なくなる。ハイレーキ車のリアは、ダウンフォースによりサスペンションに押し付けられて沈む。このような高速コーナーでは、(ホイールベースの)短いハイレーキ車が発生するダウンフォースの総量は、長いローレーキ車よりも少ないと推測される。レーキの違いを利用して、小さなフロアの埋め合わせをしているからだ。

低速走行時、レーキの違いは最大化し、ハイレーキ車は、短いフロアを補って余りある効果を得られる。空気の流れを定着させている限り、リアが地面から離れていても問題はない。

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RB16B のレーキ角は W12 よりも大きい

昨年のメルセデスは、リアサスペンションの設計にはいかなる苦労も惜しまず、リアタイヤディフューザー間の重要な部分で気流の通り道を増大させ、リアで更にダウンフォースを生み出した。

彼らはリアサスペンションのロワアームを後方に下げることにより、これを実現した。気流の向上はリアタイヤへの荷重を増大させ、リアをスナップさせることなく、フロントに更に荷重をかけられるようになった。

これにより、ハミルトンはようやく、2017年の“ビッグ・カー”レギュレーション導入以来探し求めていた、ターンインが強い車のセットアップが可能になった。2017年から19年まで、メルセデスの長いホイールベースは、高速域での強力なダウンフォースをもらたしてきたが、低速コーナーのエントリーでは少し鈍感になっていた。昨年はリアの安定性が増し、リアの挙動を恐れることなく、フロントを更に敏感にすることができた。

カットバックフロアのレギュレーションは、コーナーのエントリーでリアを破綻させることなく、フロントにこのような攻撃的なセットアップを施すことができなくなるほどに、メルセデスのリアありきのダウンフォースを奪ったのかもしれない。

レッドブルのリアサスペンションの進化

レッドブルは今年、2020年のメルセデスに倣い、同じくリアサスペンションを後方に移す方法を模索してきたようだが、この方法は、21年のトークンを消費しておこなう開発では除外された。にもかかわらず、彼らはマウントポイントを保持したまま、巧妙な方法でそれを実現してきたと考えられる。

リアのロワウィッシュボーンは、以前はトラックロッドの前方に配置されていたが、今は後方に配置されている。まさに昨年、メルセデスがおこなったのと同じで、リアタイヤの内側面とディフューザーとの間に流れる気流を増大しているのだろう。

これはハイレーキ車の低速域では特に重要であり、レッドブルにとって、昨年のメルセデスよりも更に大きな効果をもたらしたと考えるのは、極めて妥当なことだ。

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RB16B のリアのロワウィッシュボーンは、トラックロッドよりも後方に配置されている...

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...これに反し、昨年のロワウィッシュボーンはトラックロッドの前に配置されている

更に、レッドブルの短いホイールベースの場合、メルセデスが 2017-19年に直面した低速コーナーでの回頭性が悪くなる傾向は、元々少ないものだった。 

もし、ハイレーキの RB16B が 21年のフロア制限をサスペンション変更によるリアエンドの強化で補い、一方のメルセデスは、20年の段階で既にリアのロワサスペンションを後方に下げており、補うことが出来なかったとすると、ここがメルセデスがリアの安定性に問題を抱え、レッドブルが根を張ったようなリアを持つ理由になるかもしれない。

その上、低速コーナーにおいて、ローレーキーコンセプトは、メルセデスがフロア面積の削減を埋め合わせるのに必要なリアの空力を得るのには、役に立たない可能性がある。それに対し、レッドブルのハイレーキフロアから得られる気流(サスペンションの後退により増大している)は、車のバランスを崩すことなくフロントエンドの鋭い反応を実現することができる。

これらは、開幕戦に向かう現時点での見解と疑問点である。メルセデスにとっては、新しい気流まわりの単なる微調整に過ぎないのか? あるいは、急速に勢いを増したレッドブルに対して、明確なディスアドバンテージなのか? 月末のバーレーングランプリで実際に戦いが始まれば、彼らの相対的な戦闘力がはっきりしてくるだろう。