デフとは? フェルスタッペンはこれで勝利を失ったのか?

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マックス・フェルスタッペンバーレーングランプリでルイス・ハミルトンを 0.4秒近く上回ってポールポジションを獲得したが、レースではそのイギリス人に敗れた。メルセデスは巧みな戦略でハミルトンをフェルスタッペンの前に出したが、レッドブルのドライバーはレース中、デフの問題でペースを失っていたとも語った。今週の Tech Tuesday では、マーク・ヒューズがデフとは何か、そしてその問題がフェルスタッペンの勝つチャンスをどのように損なったのかを明確にする。

レッドブルのヘルムート・マルコによると、シーズン開幕戦のバーレーングランプリにおいて、フェルスタッペンはデフの問題によって、第1スティントで1周あたり最大0.3秒を失っていたらしい。それによってフェルスタッペンは、メルセデスに対して予選では持っていたアドバンテージをレースペースに生かすことができず、ハミルトンをアンダーカット圏外に留めることができなかった。結局、これがレースの敗因となった。

では、デフとは何をするもので、どのようにしてフェルスタッペンのレースにここまで大きな影響を与えたのだろう?

デフは、後輪の間にあるトランスアクスル内に配置されていて、(任意のコーナーで)リアの内輪と外輪に伝わる駆動力の割合を調節する。内輪(左回りのとき、左リア)はコーナーで、外輪よりも少ない回転数になる必要があり、ディファレンシャルは、ギアを介した相互接続によって、それぞれの車輪の回転を適切に分配する機構だ。

しかし、デフには更に積極的な手段として調整することが可能だ。摩擦を利用して左右のホイールへのトルク配分を変化させ、クルマの旋回を助けたり、ブレーキング時にクルマを安定させたりすることもできる。

完全に“オープンな”デフは、コーナーの弧に応じて単純に駆動を分配する。完全に固定されたデフは分配を行わず、内輪は必要以上の駆動を得て、表面を擦りながらターンを通過するが、外輪はトルクを得てクルマの旋回を助けることができる。

これらフルオープンとフルロックの間は無段レンジである。F1では、ステアリングホイールのスイッチ操作により、電気油圧制御を用いてこの2点間で抵抗を変化させることができる。フリクションプレートにかける油圧の変化で、摩擦抵抗を制御しているのだ。

完全に自由なデフは、左右の速度差に関係なく、両輪に同じトルクをかける。内輪が空転し始めると、デフは両輪のトルクをカットする。これにより、コーナーを抜けるときにパワーが下がり、トラクションの上限は低くなるものの、ホイールスピンが制御しやすくスムーズな、扱いやすいクルマになる。

グリップが低い路面では、これは良い制御となる。どの道、十分な駆動力を得られないからだ。一方、より硬いデフは、内輪へのトルク制限に抵抗することで、外輪にかけるトルクが強くなり、より大きなトラクションで加速することができる。そうすることで、クルマの旋回を助けることができるのだ。しかしトラクションが大きすぎると、更に悪い状況になってしまう。

一般的に、得られるグリップが高い場合、ドライバーはデフをより硬くして使う傾向にある。軟らかいタイヤでラバーの乗ったトラックであれば、ドライバーは更にデフを硬くして、より機敏に方向転換できるようにする。

 

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予選では RB16B が W12 を凌いでいたが、日曜は形勢が逆転

フェルスタッペンはフォーメーションラップという早い段階で、ターン1 と 2 で内輪が空転していることに気がつき、デフを硬くした。この選択は、ステアリングホイールから読み取ることができるが、クルマの状況は変わらなかった。そのためドライビングで適応しなければならず、それら低速コーナーを抜けるときには、パワーの出し方を控えめにすることで対応した。

それにより、確かにラップタイムも失ったが、内輪の空転は、タイヤの表面温度の上昇も招いてしまった。

サキールのようなサーマルデグラデーションの大きいトラックでは、リアタイヤの温度に気を配る必要がある。単純に全力で走るわけにはいかない。早々に、しかも何度も、ピットインを強いられることになる。ホイールスピンがタイヤの温度を上昇させてしまうので、フェルスタッペンは、リアタイヤの温度が上がる一方になってしまうような状況を避けるため、残りのラップを本来より保守的に走る必要があった。

だからこそ、予選ではレッドブルに歯が立たなかったメルセデスのハミルトンが、最初のピットストップウィンドウが開くまで、アンダーカット可能な位置に留まることができたのだ。