レッドブルが巧妙なリアサスペンションで優位に立てたのは何故か?

出典:

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時期尚早ではあるが、マックス・フェルスタッペンが、開幕戦でここまで支配を続けてきたルイス・ハミルトンメルセデスを上回り、圧倒的なポールポジションを獲得したのは、センセーショナルなことだった。フロア改変のレギュレーションに対し、レッドブルのようなハイレーキ・カーが受けた影響は少なく、メルセデスのようなローレーキ・カーは大きく影響を受けたことについて、色々と取り沙汰されている。しかし、F1技術のエキスパートであるマーク・ヒューズの解説によると、これは、レッドブルがタイトルの有力候補に浮上した理由の一部でしかない。

フロア面積の削減や、数々の制限にもかかわらず、レッドブルがリアで多くのダウンフォースを獲得できたことの要因のなかで、リアサスペンションの巧妙な再設計は、かなりの比重を占める。

2021年のマシン開発にあたり、たったふたつの開発トークンでしか昨年のクルマへの追加開発を許可しないという、感染拡大を発端とした制限下において、外部のサスペンションパーツ(ウィッシュボーンやプルロッドなど)の改変は、その制限に含まれていない。

しかし、内部のサスペンションパーツ(ロッカーやダンパー)は、制限の対象となる。マウントポイントの変更は、ギアボックスケーシング、もしくはクラッシュストラクチャ、あるいはその両方の改変が伴うため、開発トークンの消費が必要になる。

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バーレーンの予選、フェルスタッペンはハミルトンを楽に上回った

レッドブルは、昨年のメルセデスとよく似た方法で、リアサスペンションを後方に移動させている。昨年は制限がなかったので、メルセデスは任意の場所にマウントポイントを移すことができた。

しかしレッドブルは、マウントポイントを維持したままそれを実現したので、この領域で開発トークンを消費することはなかった。レッドブルは元からリアのウィッシュボーンをかなり後方に配置していたが、RB16B では、ウィッシュボーンの前側を更に後方に下げることに成功している。

リアサスペンションを後方に下げることにより、空力担当者にとっては貴重な不動産とも言えるような、大きな空間を確保した。サイドポッドからリアタイヤディフューザーウォールとの間へ気流を導こうと努力した結果である。この気流をより高速にすると、ディフューザを通過し後方へ抜ける際に、内側の空気をより強く掻き出すことができる。

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2020年仕様の RB16(左上)と 2021年仕様の RB16B(右上)とのリアサスペンション比較

 

レッドブルはマウントポイントを変えることなく、どのようにしてこれを成し遂げたのだろうか? ジョルジョ・ピオラの描いた、昨年の RB16(左)と今年の RB16B(右)との比較図から、細いトーリンク(円内の青)が、ドライブシャフト(赤)の後方から前方に移動していることが分かる。

以前のトーリンクは、ホイール側はトップウィッシュボーンの位置に接続されていたが、現在は下方向に伸ばされ、前方に移動して、これまでボトムウィッシュボーンの前側に使われていたマウントポイントに接続されている(ウィッシュボーンは黄)。

では、前方にマウントされていたボトムウィッシュボーンは、マウントポイントをトーリンクに奪われ、どこに移動したのか? ボトムウィッシュボーンの前側は、ホイール側は同じマウントポイントだが、車体側は角度を後ろ向きに変えて、以前は後ろ側のマウントポイントだったところに入れ替わりで接続されている。ウィッシュボーンの後ろ側は、以前はトーリンクのマウントポイントだったところに接続されている。

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リアサスペンション周辺の変更は、レッドブルの空力担当者にとってギフトとなった。

これにより、ウィッシュボーンの角度が狭くなり、強度が維持できなくなるため、代わりに重くする必要が出てくるだろう。しかし、かさばるウィッシュボーンを後方へ移動させ、空力的に最も敏感なエリアの外へ出すことができる。

開発トークンの制限下において、これは極めて巧妙なメカニカルソリューションであり、その空力効果は、フロア面積削減のレギュレーションによって更に引き立てられているかもしれない。