2年ぶりのバクーに向けたレッドブルのリアウィング選択

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今週末のアゼルバイジャングランプリにおいて、バクーストリートサーキットへの挑戦が、いわゆる“フレキシブルウィング”論争にスポットライトをあてることになるのは何故なのか。マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に解説する。

アゼルバイジャンにあるバクーサーキットは、シーズンのカレンダーの中で、最も二面性のあるレイアウトだ。クルマに求められる要素は、低速コーナーでのブレーキング、回頭性、トラクション、ドライバビリティが全てのモナコのようなミドルセクターと、ラップ終盤とセクター1の一部を構成する、みなし“ストレート”での、1.4マイルもの全開区間との、究極の妥協である。

ここは、シーズンの中で両極端のモナコモンツァのウィングが両方とも求められるサーキットなのだ。

今シーズンのいわゆる“フレキシブルウィング”論争は、今週末、最も白熱する可能性がある。これは、フランスから採用される FIA の新しい検査基準前の最後のレースであることだけではなく、ここがこのウィングから最大限の効果を得られるトラックだからだ。

バルセロナの金曜日のプラクティスでは、レッドブルはハイダウンフォース仕様のウィング(下図の下の絵)を使っていた。これは傷みやすいリアタイヤを庇うのに最も適したウィングで、ターン中のスライドを最小化し、タイヤの温度を制御しやすくする。バルセロナのようなサーキットでは、常に焦点があてられる問題だ。

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上:“スプーン”ウィング|下:ハイダウンフォース仕様のウィング


しかしレッドブルは、いくつかのデータを見て、ハイダウンフォース仕様のウィングでは、ストレートエンドで速いメルセデスに対して遅すぎると判断した。メルセデスのクルマは概して、とにかくドラッグが低い。

そのためレッドブルは土曜日から、不本意ながらも“スプーン”形のウィング(上図の上の絵)に切り替えた。このウィングは両端の下の部分がカットされている(上図の赤丸)。

翼端は最もドラッグが生じる部分であり、その部分をカットすることは、ダウンフォースの低下を抑えながらドラッグを減少させる、最も効果的な方法である。

しかし、後方の車載カメラの映像によると、この特徴的なウィングは更にドラッグを低減している。一定の速度を超える、即ち、この特性を発生させるのに十分な空力負荷が加わると、後方へ沈んでドラッグを低減するのだ。

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バクーのミドルセクターは“モナコのようだ”と言われる


レッドブルのウィングは、FIA の課す静的負荷試験をパスしているが、メルセデスのボスであるトト・ウォルフは、もしレッドブル、あるいは別のチームがバクーでこのウィングを走らせた場合、抗議を受ける可能性があると述べている。

ありきたりなトラックであれば、この柔軟性で得られるラップタイムの短縮は僅かなものだが、年間で最長の全開区間があるバクーであれば、それはかなり大きなものになる。

柔軟性によるドラッグ削減効果により、ウィングに大きな角度をつけて走ることができ、特に(1周の40%を構成する)モナコのようなミドルセクターで、その恩恵を受けることができるだろう。

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今週末は、バクーのロングストレートのおかげで、ウィングのセッティングが大きな違いを生むだろう


レッドブルのハイレーキコンセプトはメルセデスのローレーキよりも本質的にドラッグが大きく、今シーズンは概ね、メルセデスの方がスピードトラップで速い。

レッドブルがクルマの弱点に取り組む姿勢は明確で、このウィングは、メルセデスよりもレッドブルに大きなラップタイムの短縮をもたらすだろう。より多くのドラッグを削減することができるからだ。

バクーでのレッドブルはこれまで、低ドラッグのアプローチを好んできた。しかし一般的に、低速コーナーでのパフォーマンスに重点を置いたハイダウンフォース仕様のウィングも機能するので、別の方法でも同じようなラップタイムを刻むことができる。

特にタイヤをより良く機能させることができるなら、レッドブルは何だかんだ言ってもハイダウンフォース仕様のウィングを選ぶかもしれない。しかしその選択に、かなりの労力が注がれるのは間違いない。