レッドブルがバルセロナでメルセデスに喫した敗北は、ポール・リカールでの不吉な予兆なのか?

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レッドブルマックス・フェルスタッペンメルセデスルイス・ハミルトンによる2021年のタイトル争いは、彼らのクルマの技術的な違いによるところが大きい。勿論、両ドライバーのパフォーマンス、ピットストップ、戦略、チームメイトのサポートも関係するが、これらはあくまで2台のクルマが接戦になった時に現われる二次的な要素である。

印象的なことに、ここまでの6戦中4戦で、一方がもう一方に対し、性能面で決定的なアドバンテージを持っていた。双方のクルマに対して、それぞれのサーキットが、それぞれ異なる大きな弱みや強みをもたらしたのだ。

終わったばかりの直近のふたつのトラック(モナコとバクー)では、2台のクルマのフロントタイヤの熱入れの違いが決定的な要素となった。公道の低グリップな路面と、角度が浅く低速のコーナーでは、タイヤへの入力が小さいためである。

これはレッドブルに対して非常に有利に働いたが、その直前のバルセロナでは、リアタイヤのサーマルデグラデーションの抑制が大きな違いを生む要素となり、メルセデスは明らかにこの点で優れたクルマを持っていた。

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モナコとバクーの特徴は、レッドブルに有利に働いた

次戦ポール・リカールは、バルセロナとよく似たチャレンジになると予想されており、フェルスタッペンはそのことに気がついているようだ。彼はタイヤの破裂でバクーの優勝を失い、ハミルトンに対する僅かな差を広げるチャンスを逃した。

「ガッカリだよ」と彼は語った。「今日はチャンピオンシップでルイスとの差を広げることができる機会を逸したからね。標準的なトラックに戻ったら、メルセデスがとても強くなることは分かっている」

バルセロナでは、レッドブル RB16B には、適切なストレートスピードと、タイヤのデグラデーションを抑えることを両立するウィンドウがないように見えた。ウィング選択に応じて、どちらか一方を得るか、あるいは両方とも失っていた。

メルセデスは、低ドラッグでリアタイヤに負担が少ないクルマなので、それらを両立させることにより、ハミルトンに2回目のピットストップをおこない、フェルスタッペンの20秒後方から追いつき、パスするまでタイヤのグリップを維持することができた。仮にレッドブルがそれを予見し2回目のストップをおこない、それに反応してメルセデスがハミルトンを走らせ続けたとしても、フェルスタッペンにはハミルトンに追いつき、ましてや追い越すようなペースは無かっただろう。

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バルセロナでは、レッドブルメルセデスを倒すには力不足だった

レッドブルが2種類あるリアウィングのうちダウンフォースが低い方を使うと、十分な直線スピードと予選でのパフォーマンスは得られたが、彼らのタイヤ劣化はメルセデスよりもかなり大きかった。

少なくともフェルスタッペンはそう信じている。「そう来ると思っていた」と、彼はバルセロナでのメルセデスの戦略について語った。「ソフトでの第1スティントの終盤で既に(ハミルトンは)僕より速くて、ミディアムを履いた時には更にいいペースを持っていた。彼は1秒以内に留まっていたから、僕たちにできることは何もなかったんだ。彼らがもう1回ストップした時、やられたと思った。既にタイヤに苦しんでいたし、彼はみるみる迫ってきて、まあ、いいカモだったね」

「明らかに僕たちにはペースが足りなかった」と、彼は付け加えた。「僕らは遅すぎた。そういうことだ。他に言うことはあまりない。タイヤとかに気を配って、できる限りのことをしたんだけど、あの勢いで追い上げられたらそれでは足りない。明らかにペースが違った」

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メルセデスがタイトル争いに復帰するのに必要なのは、単にポール・リカールに戻ることだけかもしれない

「勿論、状況に合わせて可能な限り最善の戦略を実行するんだけど、僕たちが例えば、更に早く2回目のストップをしたとしても、ルイスに追いつけたとは思わない。もっと速いクルマが必要なんだ。単純にね。そしたらこんな状況に陥ることもない。僕たちはそこに集中する必要がある」

リカールに向けて、レッドブルがこのジレンマに何かしら答えを見つけているかどうかが大きな疑問となる。モナコやバクーでは関連性が薄く、競争力を損なうものではなかったが、ここでは重要になるだろう。

更にやっかいな問題がふたつある。一つは、FIA がウィングの柔軟性測定の新プロトコルを導入する最初のレースが、ここリカールであること。この新しい柔軟性計測方法のもとでは、レッドブルバルセロナで使ったウィングで走ることは難しくなるだろう。恐らく、ストレートスピードとタイヤのデグラデーションを両立させることは、更に困難になる。

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ジョルジョ・ピオラのイラストは、FIA の柔軟性測定プロトコルによる新しい要求を示している

二つ目は、ピレリのタイヤコンパウンド選択がバルセロナよりもアグレッシブなことだ。C1/2/3 だった組み合わせが、C2/3/4 になる。問題の核心はコンパウンドの柔らかさそのものではないが、どれくらい柔らかいかは、当日のトラック状況と関連している。これは金曜日に走り始めないと見えてこないが、レッドブルの抱える問題をより難しくする可能性がある。

メルセデスにとって問題となる可能性があるのは、特に硬いコンパウンドでは顕著な、熱入れに時間がかかる特性である。トラックの特性上、予選で顕在化することはないだろうが、ピットストップの際には依然として、やっかいな状況になる可能性がある。

アンダーカットとオーバーカットについて考えると、タイヤの熱ダレが大きい場合、必然的にインラップのグリップは低くなる(先にストップするドライバーに有利)が、温度が上がり切る前のアウトラップでの遅さによって、その利点が打ち消される可能性がある。これは、レッドブルよりもメルセデスに発生しそうな特性である。

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周知のとおり、レッドブルピットクルーによる高速作業は、重要な役割を果たしてきた

これはメルセデスがストップまでリードしている場合は重要ではなくなるが、他車の後ろにいる場合は、アンダーカットのチャレンジを損なうかもしれない。つまり、彼らはアンダーカットを使えなくなるということだ。レッドブルはこれに対し柔軟に対応しているようだ。彼らには超速のピットストップがある。

ピレリから指定されるキャンバーと最低内圧は保守的(2018年、ここでランス・ストロールのタイヤが破裂)で、1周目の熱入れはやりにくくなる一方である。

クルマの特性に基づいて考えると、リカールではメルセデスが有利と予想されるが、ストップ時のトラックポジションによる懸念は存在する。ただしレッドブルが、バルセロナでの惨敗の原因となったタイヤのデグラデーション特性について、今でもまだ理解と修正を試みているようなら、彼らが立ちはだかるようなことはあり得ない。