フェラーリはいつもポール・リカールで苦戦しているように見えるが、その理由は?

出典:

www.formula1.com

 フェラーリのフランスグランプリは、カルロス・サインツシャルル・ルクレールが予選でそれぞれ5番手と7番手を獲得したにもかかわらず、2台ともポイント圏外に終わり、大きな失望に見舞われた。その理由を探るため、F1技術エキスパートのマーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラのイラストを用いて、ポール・リカールでのスクーデリアに降りかかった問題を深掘りする。

 ポール・リカールの決勝では、誰もが左フロントタイヤのグレイニングに悩まされていたが、フェラーリの SF21 はそれらのクルマの中でも特に苦しんでいた。

 フェラーリがフロントタイヤを最大限に生かせず苦しむのは真新しいことではないが、このフランスのトラックでは、長いコーナーとグリップの低い路面のため、殊更ひどい状況だった。

「僕たちのパフォーマンスは、タイヤのことだけで決まった」と、カルロス・サインツはレース後に説明した。「タイヤの機能のさせ方でね。フロントタイヤのワーキングレンジがとても小さかったんだ。恐らくフィールド全体のどの相手と比べても、グレイニングとフロントの磨耗に苦しんでいたと思う。どうしてこんなにウィンドウが狭かったのか、どうして他よりもフロントタイヤの磨耗に苦しんだのか、理解しようとしている」

f:id:rotf:20210624002620p:plain

ポール・リカールのレース後、フェラーリのドライバー二人の表情が状況を物語っていた

「週末はずっと、だいたいアンダーステアの傾向だったんだけど、金曜日は暖かくて、そんなにシビアな問題じゃなかった。ルクレールのロングランペースも良かったし。恐らく金曜日は、僕らの狭いパフォーマンスウィンドウに入ってたんだと思う」と、サインツは語る。

「フロントの磨耗は悪くなかったんだ。でもグリッドに向かう時には、トラックが非常にトリッキーになっていた。実際、ターン11でコントロールを失いそうになった。これはトラックが全く異なるコンディションだったことを物語っている」

「それ以外では説明がつかないんだ。金曜日と比べて1.5秒も遅いトラックなのに、出なかったタイヤのグレイニングが出るようになった」

 タイヤのグレイニングは、トレッドの温度とタイヤ内部の温度とが合わない時に発生する。タイヤ内部がその作動温度領域に入らず、硬く弾力のないままだと、メカニカルグリップを生む力を発生することができない。

f:id:rotf:20210624002524p:plain

グレイニングによって2台のフェラーリはライバル達に飲み込まれていった

 タイヤのたわみは、クルマのコーナリング力に反応したもので、コーナーでかけられた力に対し、自分のたわみを元に戻そうとする反対方向の力となる。この作用をより効率的に発生させられれば、タイヤのトレッド表面にかかるストレスはより小さくなり、トレッドを“化学作用による”グリップ(トレッドが路面に接着することによるグリップ)が最大化する理想的な温度に保つことが容易になる。

 内部が作動温度領域より低いままだと、タイヤは路面を横滑りし、トレッドが過熱する。トレッドが過熱すると、内部が更にたわむような温度上昇を促す力が発生せず、悪循環に陥ってしまう。

 熱くなったトレッド表面が引き裂かれ、硬いままの内部からトレッドが引き離されると、ここからグレイニングが始まり、タイヤの劣化速度が跳ね上がる。グレイニングは、コンパウンドが柔らかいほど激しく、コーナリングの時間が長いほど悪化する。短く、急なコーナーでは表面にそれほどストレスはかからない。

 思うようにタイヤの温度を上げられない時の対策として最も有効なのは、ダウンフォースをかけることで、それも多ければ多いほどいい。フェラーリはエンジンパワーが不足しているため、小さなリアウィングの使用を強いられており、フロントにかけられるダウンフォースも限られている。

 リカールでは、フェラーリのセットアップウィンドウは極めて狭く、決勝は路面のグリップが低くなったため、ウィンドウは更に狭くなった。朝の大雨が路面に付着したラバーを洗い流したため、タイヤの化学的な接着が益々困難になったのだ。

 シーズンを通して見られるクルマの特性は、この状況下でいっそう顕著になったが、フェラーリがここに持ち込んだ改良型のフロントウィングとは関係がないと考えられる。このウィングは、フラップの調整可能な部分が細くなっているのが特徴である。

f:id:rotf:20210624002009p:plain

上はフランスでのフェラーリの新しいフロントウィング、対して下は古い仕様

 合わせてフットプレートの形状変更もおこない、フラップの内側からバージボードへ向かう気流(これはリアのグリップに影響する)に悪影響を与えることなく、角度を調整できるようにしている。フェラーリはフロントとリアのバランスに幅を持たせようとしているようだ。

 バルセロナは、大きな高速コーナーがあるという点で、リカールとそう違わないが、このトラックでのフェラーリには競争力があった。違いは路面と思われる。バルセロナはかなりハイグリップだが、それに比べると(1月に再舗装されている)リカールは、グリップが低い。

 サインツの言う通り、今のフェラーリは、『どうすればこのウィンドウを使いやすく広げることができるか、全力で取り組む』必要がある。