ハンガリーGPを控えた現時点での、メルセデスを悩ませるレッドブルの設計詳細

出典:

www.formula1.com

 メルセデスルイス・ハミルトンがイギリスグランプリで優勝したが、それでも最速のマシンを持っているのはレッドブルだ。ハンガリーを控え、マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に、この理由を解説する。

 イギリスグランプリでのマックス・フェルスタッペンルイス・ハミルトンとの接触を発端に繰り広げられた論争よって失われたのは、レッドブルがあらゆる特性のサーキットで最速のマシンを有しているという真の主張をする機会である。フェルスタッペンがクラッシュで離脱し、ハミルトンが優勝したものの、前日のフェルスタッペンが快勝したスプリントが正しい力関係を示している。

 高速で駆け抜けるシルバーストンは、純粋なダウンフォースよりもエアロの効率が最も重要な特性となるトラックであり、メルセデスとってレッドブルに対する大きな反撃のチャンスとなるものと考えられていた。主要なコーナーであるアビー、コプス、マゴッツは今や、予選ではどのクルマも全開で抜けていく。

 これらのコーナーは、もはやダウンフォースの限界が試されるコーナーではないため、ストレートラインスピードが以前よりも重要になってきた。メルセデスはバクーで使ったかなり薄いバージョンのウィングを採用し、ストウ手前のハンガーストレートエンドのトラップで最速だった。

f:id:rotf:20210728201646p:plain

フェルスタッペンのクルマのガーニーフラップは、リアウィングの中央部だけに取り付けられている…

f:id:rotf:20210728201723p:plain

…一方、ペレスのクルマのガーニーフラップは、ウィング全体に延長されている

 しかしレッドブルは別の方向を選択した。彼らもバクータイプのリアウィングを選択したが、これはメルセデスよりもハイダウンフォース仕様で、かなり強力だが、下側のドラッグも大きい。

 これに加え、エッジに沿ってガーニーフラップが追加された。セルジオ・ペレスのクルマでは全幅に渡っており、マックス・フェルスタッペンのクルマは中央部のみとなっていた(上図で比較)。ガーニーフラップもダウンフォースを強くするが、ドラッグも増加する。

 これらの選択の結果、ストレートラインのパフォーマンスをふたつのクルマで比較すると、オーストリアとはまったく逆になった。シルバーストンの予選では、フェルスタッペンのレッドブルはスピードトラップで最も遅く、ハミルトンのメルセデスより 10km/h 遅かった。にもかかわらず、レッドブルは1ラップトータルだと概ね速かった。ダウンフォースのアドバンテージによって、ストレートへの進入速度が上がったのだ。

 ストレートの区間タイムは重要で、シルバーストンでふたつのクルマの差は非常に小さかった。トップスピードには大きな差があるにもかかわらずだ。

f:id:rotf:20210728201835p:plain

Car Performance グラフは、オーストリアのストレートでのメルセデスレッドブルに対する遅れ(上)と、シルバーストンのストレートでのレッドブルに対するアドバンテージ(下)を示している

 オーストリアとシルバーストンでレッドブルメルセデスの2チームが異なるアプローチを選択したのは、2台のクルマの空力特性がかなり異なっていることを示している。シルバーストンのレイアウトでは、メルセデスダウンフォースを追加する余裕はなかった。ラップ全体で遅くなってしまうからだ。レッドブルは低中速コーナーでダウンフォースを更につけることができた。コーナーで得たゲインをストレートで失ってしまわないよう、ストレートに入る速度を十分に上げることができた。

 オーストリアでの2レースで投入した多くのアップデート以降、レッドブルは低速コーナーで著しく強くなった。シルバーストンに向けて、フェルスタッペンのクルマのフロアを更に開発してきた。

 フロアエッジに三つの小さな羽根からなるディフレクターをリアホイール方向に並べて取り付けている。これは、これまで他のクルマには見られなかった風変わりなもので、以前のレースで導入された新型の“鮫の歯”ディフューザーに関連したものだ。これらはすべて、ディフューザーの効果を維持したまま車高を上げるためのものである。

 この最新のフロア調整は、空力が得意なチームがディフューザーで見出したゲインに関連した素早い最適化の繰り返しとつながりがあるようだ。

f:id:rotf:20210728201918p:plain

ジョルジョ・ピオラのイラストによる、シルバーストンでの RB16B のフロアエッジに取り付けられた三つの羽根からなるディフレクター

 3つのミニウィングは、形状は異なるが、クルマの進行方向に対して90度の角度で配置されており、ウィングそのものでダウンフォースを追加するというより、アンダーフロアのエッジ部分の気圧を調整するのが目的と考えられる。

 2021年にフロアエッジのルーバーとスロットが禁止されてから、各チームは、アンダーフロアのエッジ部分に沿って発生する渦流を維持する他の方法を追及してきた。この渦流がフロアを効果的に密閉することで、アンダーフロアの中央部にかかる負圧が大きくなり、路面により引き寄せられるのだ。

f:id:rotf:20210728201954p:plain

イギリス(上)とオーストリア(下)のレッドブルのフロアを比較すると、シルバーストンに持ち込んだ新しいデザインが分かる

 新しいディフューザーの気流によって、レーキ角を大きくすることが可能になったが、これにより、車速が最も落ちて車高が最大になるときに、フロア後方でこの渦流を維持するのが困難だったのかもしれない。これらのウィングは、この挙動への対策なのだろう。

 ハンガロリンクでは、クルマにどれだけ大きなダウンフォースをかけられるかが課題となり、ダウンフォースとストレートラインスピードとのトレードオフは、さほど重要ではなくなる。正にレッドブルのテリトリーである。メルセデスは悩まされることになるだろう。多少なりとも妥協点を探る余地のあったシルバーストンでさえ、レッドブルのほうが速かったのだから。