凡庸な2020年型マシンを SF21 で速くしたフェラーリの巧みな再設計

出典:

www.formula1.com

 先代の2020年マシン SF1000 を大きく超えて進歩させてきたフェラーリのアップグレードを、マーク・ヒューズが解説する。イラストはジョルジョ・ピオラの提供。

 フェラーリハンガリーで優勝争いに加わる絶好のチャンスを失った。1コーナーの大混乱で1台のメルセデス、2台のレッドブル、更に1台のマクラーレンが脱落し、間接的ではあるがその影響でルイス・ハミルトンも最後尾に後退した。

 同時にシャルル・ルクレールも離脱し、優勝はアルピーヌとアストンマーティンによって争われ、フェラーリは残ったカルロス・サインツが、第1スティントの殆どで3番手のウィリアムズのニコラス・ラティフィの後ろに詰まらされたことにフラストレーションを感じたはずだ。もしそうならなかったら、2021年のフェラーリにはポール・ポジション獲得と並んで優勝が加わり、昨年からの大躍進と、先代の SF1000 から SF21 へのアップグレードの有効性が強調されたことだろう。

 シーズン初めのローンチ時に比べて多くのことが見えてきており、トークンシステムによる作シーズンから今シーズンへかけての開発制限にもかかわらず、どれだけ多くのイノベーションがアップグレードに取り込まれたのかが明らかになっている。

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ハンガリーグランプリで、シャルル・ルクレールは1周目にランス・ストロール接触し、脱落した。

 トークンシステムは大きな変更の数を制限しており、フェラーリにとっては、大きな構造変更をクルマのフロントでおこなうか、リアでおこなうかの選択となった。

 両方とも変えるのが理想的で、リアのサスペンションと空力にも、ノーズ形状による空力にも、大きな開発の余地が存在した。しかしトークンシステムによりそれは許されず、フェラーリは、より大きな制約となっているエリアに集中した。リアエンドである。

 鍵はギアボックスケーシングを以前より後ろへ伸ばし、更に上方へ傾けることだった。ケーシングを長くすることで、リアサスペンションを後方へずらすことができる。これは、2020年のメルセデスと同じ手法で、ディフューザー周辺の空間を大きくし、空力に活用する。

 フェラーリは、トークンシステムにより、メルセデスが採用したサスペンションをクラッシュストラクチャにマウントする方法を使うことができず、代わりにギアボックスを後方へ伸張し(下図)、同様の効果を得た。

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前方、ギアボックスの入力側が、カーボンファイバーの覆いからのぞいている。ギアボックスを少し傾けることで、フロアを更に起こすことができ(黄線)、ディフューザー周辺により多くの空気を流すことができる。これによりデフも持ち上がる(黄色の十字はドライブシャフトのデフ側の位置)ことになり、ドライブシャフトの角度が強くなる。

 ギアボックスを少し上に傾けることで、デフを数センチ上に動かすことができる。この数センチは重要で、ディフューザー周辺という空力的効果の高いエリアで深いサイドチャネルを確保している。

 このデフを持ち上げる手法は、2022年型マシンの開発において極めて標準的なものになると考えられる。2022年型マシンは、フロア前方から続くベンチュリー構造による強力なグランドエフェクトを利用しているからだ。空力担当者はこのベンチュリー構造の傾斜角を最大化することに執心しており、例え重心が高くなったとしても、デフを持ち上げることで、これを容易におこなうことができる。

 フロント部において、フェラーリは時代遅れのワイドノーズによる制限を受けている。メルセデスは2017年にスリムノーズに切り替えたし、レッドブルは同様の切り替えを2020年におこなった。スリムノーズは、ノーズ裏側のケープによって、バージボードへ向かう気流の方向付けを早い段階でおこなうことができる。この方向付けを早くすることができれば、剥離が少なくなるし、その先で気流を加速するさまざまなベーンに向けて、より正確に導くことができる。

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フェラーリはノーズの裏に独特なダブルケープを採用している。上側のケープはバージボードへ向けて気流の向きを変え、下側のケープ(黄色で強調)は気流が直接フロア下へ向かうのを促進する。

 ワイドノーズの場合、裏側に気流が勢いを失う“デッドゾーン”が生まれるおそれがある。フェラーリは、メインケープ下の小さなセカンドケープ(上図)によって、これを最小化している。これは高速域で気流を直接アンダーフロアへ向かわせるチャネルとして機能する。フロア下の気流を速くすれば、ダウンフォースは大きくなる。

 フェラーリには凡庸な2020年型マシンを再設計するための手段が限られていたが、その制限内で素晴らしい創造性を発揮してきた。これは、レギュレーション改訂によりマシンがまったく新しくなる2022年に向けて良い兆候だ。