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コロナ禍により F1 の大規模なルール変更は2022年に延期になったものの、技術革新が止まったわけではない。今週の Tech Tuesday では、マーク・ユーズが、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に、メルセデスやレッドブルといったチームが、2021年のレギュレーションに合わせて2020年型マシンに施した最も見事な調整を解説する。
空力レギュレーション刷新を前にして、現行の技術フォーマットが1年延長され、今シーズンは、マシンの一部の改変を禁止する厳しい規制のもとでの現行 F1 の低コストな最終年となるはずだった。目的は今のマシンの寿命を1年延ばし、感染拡大による財政難にあてることだった。
それに加え、コストキャップの第1段階であるにもかかわらず、F1 の典型である創造力によって、革新的な手法が見出された。これには、ダウンフォースの増加を抑止するための空力レギュレーションの調整も、一役買っているかもしれない。
フロア面積の削減、フロアスロットとルーバーの禁止、ディフューザーのストレーキとブレーキダクトのウィングレットのサイズ縮小に対し、チームは取り組むことになった。失われたパフォーマンスを取り戻すことが目的だが、結果的に全チームがメルセデスとのギャップを縮めるために懸命になる事態となった。
ホモロゲーション、コスト、既存モノコックの転用といった制限にもかかわらず、年初には様々な造作物がお目見えした。どんな制限があっても、F1 は適応してしまうのだ。
レッドブル、フェラーリ、アルピーヌは、その初期設計段階で、リアサスペンションを後方へずらし、ディフューザー周辺で空力担当者が利用できる空間を大きくする、メルセデスのイノベーションを模倣する方法を見出していた。このような変更を制限するトークンシステムがあるにもかかわらずだ。
既存のピックアップポイントを残しつつ違う使い方で再構築することで、これらの制限を回避しながら、2020年のメルセデスと同程度の効果を実現している。
また、変わった特徴もあらわれた。フロアエッジのカットとスロットの禁止は、フロアエッジの下側に気流の渦を生成し、密閉するための数々の解決方法を生み出した。これにより、クルマを路面に引き寄せる負圧を生成している。
メルセデスは当初、連続した波形のうねりをフロアの裏側に施していた。その後、シルバーストンでは、うねりを緩やかにし、代わりに縦方向の二重フラップが空気を渦に巻き込む役割を果たす、更に複雑な構成に置き換えていた(下図)。
他では、Zフロア(フロアエッジをZ形に切り欠き、そこへ導いた空気が巻いて、フロア裏面の外端に沿った渦流となる機構)が標準的になった。
モナコのプラクティスでは、レッドブルがディフューザーの終端に沿ってサメの歯のようなギザギザを施していた。続くレースでそれを発展させ、オーストリアグランプリでは、マックス・フェルスタッペンのマシンにディフューザーの終端全幅に渡る鋸歯が見られた。
この終端処理は、ディフューザー上部を抜ける空気のチャネルにおいてガーニーフラップのように機能し、サメの歯で生まれた小さな渦流の並びが、車高が高いときでも気流を良好に保ち、クルマをより大きなレーキ角で走行できるようにしている。
フェラーリは、トークンシステムによって時代遅れのワイドノーズを強いられており、ワイドノーズの裏側に生じる“デッドゾーン”で気流を加速させる新しい手法を見出した。
追加のケープをメインの裏側に設置し、デッドゾーンにおけるチャネルとして利用して、アンダーフロアへ向かう気流を加速している。
F1 では、新たな制約によって新たなソリューションが生まれる。その発想は、とどまる所を知らない