ウィングレベルはレッドブルとメルセデスのタイトル争いを左右するのか

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 サマーブレイクが終わり、シーズン後半が幕を開ける。魅力的な数多くのサーキットが控えており、サーキットごとに、ドラッグとダウンフォーストレードオフの選択肢が異なる。そしてこの妥協点は、ルイス・ハミルトンマックス・フェルスタッペンのふたりによるタイトル争いの行方を左右する核心的な要素となるのだ。残されたそれぞれのトラックにおいて、振り子はどちらに揺れるのだろうか?

 車体で発生するダウンフォースの大きさと、それに伴うドラッグの大きさには、常に妥協点が存在する。ダウンフォースは制動力や旋回性を高めるが、ドラッグが大きいとストレートで遅くなる。リアウィングを厚くしてダウンフォースを増やしても、ラップタイムにすると逆効果となる時もあるのだ。

 しかし、これらがどこでクロスオーバーするかは、トラックのレイアウトに大きく依存するし、車体やパワーユニットにも依存する。更には路面温度や、タイヤのデグラデーションの大きさからも影響を受ける。

 メルセデスは、ローレーキの車体コンセプトで、ハイレーキのレッドブルよりもドラッグは小さく、そしてダウンフォースは大きくなる傾向があるが、あくまで2台のウィングを同じセッティングにした時の話である。レース週末において、それぞれのチームが選択するウィングによっては、その順位が逆転することがある。

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バルセロナで比較されたレッドブルのハイダウンフォース仕様(上)とローダウンフォース仕様(下)のウィングと、それぞれが使われたセッション

 シーズン前半の何レースかにおいては、ふたつのチームのウィング選択が、結果を左右する要素となった。スペインでは、ストレートラインスピードとタイヤのデグラデーションとの間でトレードオフが発生し、レッドブルは金曜日のプラクティスで試した厚いリアウィングを使うことができなかった。この時、彼らはロングランで最速に見えたが、ピット前の長いストレートエンドでは、メルセデスに付け入る隙を与えていた。

 ストレートでカモにならないよう、レッドブルは薄いウィングを選択した。後から分かったことだが、このウィングでは、このサーキットの長く続く高速コーナーでのスライドが大きくなり、リアタイヤを過度に痛めてしまうことになった。これにより、ハミルトンはフェルスタッペンを打ち負かすことが可能になった。後続の状態からピットに入り、フェルスタッペンにタイヤの摩耗が厳しい1ストッパーを強いて、残りの周回で追いつき、追い越したのだ。

 レッドブルがフロアとディフューザーを改良し、アンダーボディのパフォーマンスが上がると、オーストリアの連戦で形勢が逆転した。このトラックでは、メルセデスのウィングはレッドブルよりも明らかに厚かった。

 ただし、タイヤのサーマルデグラデーションは、バルセロナほど重要な決定要素ではなかった。そのため、そのハイレーキコンセプトによって、全体のうちアンダーボディで生成するダウンフォースの比率が高いレッドブルは、より薄いウィングで走ることができ、予選では直線でもターンでもメルセデスより速く、それでいてレースへの悪影響もなかった。

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メルセデスレッドブルリンクでは厚いウィングで走らざるをえなかった

 シルバーストンでは、レッドブルメルセデスよりもかなり厚いウィングを最適と判断していた。このトラックのレイアウトは、ドラッグの低いメルセデスと相性が良く、仮にレッドブルが同じような薄いウィングを使った場合、彼らのシミュレータは遅くなるという結果をはじき出した。

 レッドブルの考え方は、彼らの持つダウンフォースのアドバンテージを目一杯、利用することにあった。ストレートエンドで遅くなったとしても、中低速コーナーのパフォーマンスを最大化し、メルセデスよりも高い速度でストレートを立ち上がれるようにしていた。これはタイヤの磨耗にも優しい。

 今週末のベルギーグランプリはどうだろうか。スパは、すべてのチームにとって悩ましいところだ。セクター1と3は速いが、コーナーが多く、1周の半分を占めるミドルセクターで遅い、ローダウンフォースのウィングでいくか?

 あるいは、セクター1のレコーム、セクター3のバスストップシケインオーバーテイクされる懸念はあるが、ダウンフォースをつけてミドルセクターで稼ぐか? もしかしたら、後ろを射程外まで引き離せるかもしれない。

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シルバーストン走行時のメルセデスレッドブルのリアウィング比較

 普通に考えると、メルセデスが第1候補、レッドブルがその次となるだろう。これは、彼らが持つ戦闘力を最大限に発揮できた場合だ。実際は、多くの複合的な要素が絡んでくる。ゲーム理論として、お互いがお互いの出方を予想するし、タイヤの磨耗も考慮しなければならない。1ストップ作戦が有利なら尚更だ。

 通常、ハイダウンフォースのウィングセッティングにすると、スライドを抑えることでタイヤを労わることができる。しかし時々、コーナリングでかかる負荷が大きくなり、タイヤ内部のサーマルデグラデーションが過度に進んでしまうことがある。これが昨年、レッドブルに起きたことだ。

それ以外の後続サーキットではどうだろう?

 ザントフォールトは当然未知数だが、その曲がりくねったレイアウトは、メルセデスがかなり速かったハンガロリンクと類似している。モンツァはドラッグを最大限削るので、理論的にはメルセデスが有利だ。

 ソチは、ドラッグとダウンフォーストレードオフよりも、1周を通してタイヤをバランスよく機能させることが求められるので、明確にどちらが有利とは言えない。トルコは昨年、寒い10月の開催だったが、メルセデスはタイヤ温度を作動領域まで上げるのに苦労していた。今年のイモラでも同じ状況に見舞われている。

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スパではチームは常に若干の妥協をしている

 レッドブルは、日本グランプリの中止を悔やんでいるのではないか。恐らく鈴鹿は、彼らのクルマに理想的な構成だ。オースチンは、程度は低いが同じ種類のサーキットで、彼らの強みが発揮される見込みがある。

 メキシコの高い標高には、歴史的にメルセデスパワーユニットが手を焼いてきた。インテルラゴスのレイアウトは例年、異なるウィングレベルでも似通ったラップタイムになる。サウジの新設トラックは、低ドラッグに見えるので、メルセデスが有利。アブダビは、これまでメルセデスの牙城だったが、昨年は明らかにレッドブルが逆転していた。

 どちらが有利になったとしても、またどんなウィング選択がなされたとしても、接戦になるだろう。