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ことモンツァ攻略に関しては、ドラッグとダウンフォースが重要なファクターとなる。ならば、マクラーレンはどのようにして完璧なバランスを見出し、イタリアグランプリでセンセーショナルな1-2を獲得したのか? マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に解説する。
イタリアグランプリは、ドラッグとダウンフォースとの究極のトレードオフ、そしてそれが最速の3台であるメルセデス、レッドブル、勝者マクラーレンにおいて三者三様であり、非常に興味深い調査対象を提供した。
モンツァは、異様に長いストレートによって、ドラッグの低さがラップタイムに有利に働く。単位ドラッグあたりの損失係数(CD = ドラッグの指標)は、モンツァでは1周あたり 0.09秒とされ、例えばハンガリーは、0.038秒となっている。
言い換えると、モンツァはハンガロリンクの約2.4倍、ドラッグに敏感だということになる。バルセロナと比較すると、モンツァは約1.6倍ドラッグに敏感だ。
そのため独特の空力対策が必要で、リアウィングは、カレンダーにある他のどのサーキットでも見られないような形状となる。ダウンフォースはドラッグの要因となるが、その相関性はリニアではない。ダウンフォースは、様々な速度域やマシンの姿勢、設計など、無数の要素で決まるからだ。
リアウィングは、ダウンフォースの大きさを物語る最大の指標であるに過ぎない。ドラッグとダウンフォースとのトレードオフにおいて、その比率は、各マシンそれぞれで異なる。また、各チームが目標とする比率は、カレンダー上のすべてのトラックの要求全体に基づいている。その比率の設定範囲は、得られるエンジンパワーや、どれくらいのダウンフォース量を見込めるかによって変わってくる。
これは、車体とアンダーボディで多くのダウンフォースを発生させているクルマは、同じダウンフォースを得るのに、他のクルマと比べてリアウィングの面積を必要としないことを意味する。この典型はレッドブルだ。しかし、これは一般的なサーキットに限ったことである。モンツァのトラックで走行する場合、ハイダウンフォースのクルマは、理想のラップタイムに必要なダウンフォースを失うことなくドラッグを軽減できない、とも言える。
モンツァでは、メルセデスのようなローレーキのクルマは、リアウィングの面積を標準的なトラックで使っているものより小さくすることで、レッドブルよりも大きな比率でゲインを得ることができる。即ち、理想的なドラッグとダウンフォースの妥協点が低いドラッグに有利なトラックでは、ウィングの面積を同じだけ小さくしても、メルセデスの方がレッドブルよりも失うダウンフォースが少ないのだ。
ドラッグの低さよりもダウンフォースが有利に働くような、より標準的なトラックでは、レッドブルは、同じだけのウィング面積の削減で、多くのダウンフォースを維持することができるとも言える。
これが正にシーズン序盤のポール・リカールで起きたことだが、モンツァでは、レッドブルは十分にドラッグを減らすことができなかった。彼らのリアウィングは、スプーン形状をしたシリーズで、主翼の外側よりも中央部の方が面積が大きい。上図は、そのスプーン形状のフラップだが、角度が非常に浅い(即ち、極めて平坦な)ものだ。
レッドブルのウィングは、主翼とフラップが両端へ向けて先細りになっており、ウィングの最も抵抗となる部分を削っているのだが、それでもメルセデスやマクラーレンのウィングと比べると、ハイダウンフォース仕様に見えた。後者は直線的な主翼とフラップを持つ、より一般的な形状で、標準的なトラックの時より単純に薄くしただけで、中央部がレッドブルよりも薄くなっている。
モンツァでは、レッドブルはライバルの2チームのようなリアウィングを使おうとしたが、ベストタイムで比べると、ダウンフォースを失い過ぎていたのではないかと推測される。ドラッグとダウンフォースの調整幅が、彼らのリアウィングでは非効率だったのだ。
レッドブルよりもウィングの総面積が小さいように見えるだけでなく、メルセデスのローレーキは、レッドブルに比べて実質的なフラップ角も浅くなる(特に低速走行時、ブレーキング下、シケイン通過時)。
メルセデスは明らかに、このように低いドラッグレベルを効率的に維持することにおいて、レッドブルよりもかなり満足しており、金曜日の予選では、他に 0.4秒差をつけてフロントロウを独占した。
しかしモンツァは、特にマクラーレンのスイートスポットに嵌っていたように思われる。レッドブルのドラッグレベルの高さが尋常ではなかったこともあるのだが。
マクラーレンは、1周のラップタイムでは、決してメルセデスに迫っていたわけではなかったが、レッドブルの苦戦によって 2番目に速いクルマだった。ランド・ノリスとダニエル・リカルドの二人とも、金曜日の予選では、マックス・フェルスタッペンと実質的に並んでいた。
全員がフリーエアで DRS を使える金曜日の予選では、唯一ダウンフォースが重要になるセクター2 において、レッドブルやマクラーレンを押さえてメルセデスが最速だった。
ドラッグが重要なセクター1 では、メルセデスとマクラーレンは拮抗しており、フェルスタッペンは12番手に沈んでいる。同様にドラッグが重要なセクター3 では、マクラーレンが最速と2番手、バルテリ・ボッタスのメルセデスが3番手で、フェルスタッペンは14番手だ。マクラーレンは、3チームのなかで最もドラッグが低かったように見える。
各トラップで記録された速度を見ると、これらの順位がどのように形成されたのかが分かる。
スタート/フィニッシュラインの速度は、パラボリカの脱出速度とドラッグ、つまりダウンフォースとドラッグのバランスに依るところが大きい。数百メートル先のシケインへのブレーキングポイント手前の速度は、ドラッグで決まる。スタート/フィニッシュラインからスピードトラップまでにどれくらい速度が上がったかは、ドラッグレベルを比較する良い指標となる(エンジンパワーは等しいと仮定する)。
メルセデスとマクラーレンは、この2点間で 23km/h 速くなっていた。レッドブルは 18km/h。興味深いことに、レッドブルは、スタート/フィニッシュライン通過時はメルセデスより速い(パラボリカの脱出速度を反映している)にもかかわらず、トラップでは 6km/h 遅い。マクラーレンはスタート/フィニッシュラインで両者よりも速く、そのアドバンテージをトラップまで持ち越していた。
セクター3 のタイムが、マクラーレンが最もドラッグが低いことを示すのであれば、これら2点間のストレートにおいて、メルセデスと同じく 23km/h しか速くなっていないのは何故か。この2点間で、メルセデスよりも 3km/h 速いことが手掛かりとなる。ドラッグは速度の2乗に比例するからだ。
つまり、これらのクルマが同程度のドラッグで走行していたのなら、初速が速い方の加速は、初速が低い方よりも鈍いはずだ。マクラーレンはメルセデスよりも高速でスタートし、同じ加速をしている。やはりドラッグが低いということだ。
セクター2 のタイムは、メルセデスのダウンフォースが最も大きい(マクラーレンとレッドブルが、この順序で続く)ことを示しているが、マクラーレンはパラボリカを抜けるときのダウンフォースと、メルセデスよりも更に低いドラッグとの組み合わせによって、予選と決勝の両方で、抜くことができないクルマを仕上げた。前に出さえすれば、そこに留まることができる。これが、チームに見事な 1-2 をもたらす土台となったのだ。