バーレーンでのフェラーリ1-2フィニッシュの裏にあるパワーユニットの躍進

出典:

www.formula1.com

 バーレーンでは、フェラーリの新車 F1-75 が1-2フィニッシュを飾った。マーク・ヒューズが、その鍵となるコンポーネントの一つ、Tipo 066/7 パワーユニットを解説する。

 フェラーリが素晴らしいマシン F1-75 を開発したことは、もはや明らかだ。終盤にマックス・フェルスタッペンがリタイヤする前も、シャルル・ルクレールはレースをフェラーリの独壇場にしているように見えた。新車は扱いやすいシャシーバランスと、強力なパワーユニットを備えているようだ。

 バルセロナでのシェイクダウンの日から、メルセデスのトト・ウォルフは、フェラーリパワーユニットが最強だと語っていた。バーレーングランプリでは異論の余地がなく、フェラーリパワーユニットを使うハースとアルファロメオが非常に強かった。

 Tipo 066/7 ユニットはほぼ全てが新規開発で、持ち越されているのは、2021年9月のロシアグランプリで導入した ERS エネルギー回生・バッテリーシステムのみである。

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ルクレールバーレーンで突出したペースを見せ、サインツレッドブルのリタイアで2位に入った

 フェラーリのボス、マッティア・ビノット(元はエンジン担当)は、マシンのローンチに際してこう認めている。「ハイブリッドは昨シーズン末と殆ど同じで、FIA 2022の要求に従い、センサーが2、3個違う程度だ。それ以外、特に内燃機関は、完全に別物だと言える」

「今年から E10 燃料に変わるから、燃焼系は大きく変えることになった。20馬力程度を失うことになるから、燃焼系の変更は必須だったんだ」

パワーユニット開発には多くの可能性があったので、大きく変更することにした。特に燃焼系の設計をね」

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チームプリンシパルのマッティア・ビノットは、2009年当時はエンジンとKERS部門の責任者だった

 プロジェクトを率いるウォルフ・ジマーマンは、フェラーリの先進プロジェクト/革新的ソリューション計画の責任者で、以前はグラーツにある AvL、複数の F1 メーカーの仕事を請け負うエンジニアリング会社、で働いていた人物だ。将来的にはインタークーラーで革新が起こると言われている(興味深いことに、これはメルセデスに当てはまる)が、昨年から最も大きく飛躍したのは、超高速点火と、吸気混合気の乱流強化の組み合わせにより、より早く燃焼室内に炎が広がるようになったことだと噂されている。これにより得られるアドバンテージは、レギュレーションで最大500バールに制限された燃圧を補えることだ。

 独自要素として、タービンとコンプレッサーが一体化している構造は、これまでのフェラーリパワーユニットを踏襲したものだ。他メーカーはすべて、分割ターボ方式を採用している。しかし燃焼系を大きく変えたことで、2022年の E10 燃料条項にも関わらず、2021年を超える出力を達成している。昨年のパワーユニットは、これはフェラーリ自身も認めていることだが、メルセデスやホンダよりも20馬力劣っていたと言われている。

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フェラーリパワーユニットは、レッドブルメルセデスとは配置が異なる

 ルクレールは、フェルスタッペンに0.123秒差をつけてポールを獲得した。この時の両者のラップと、レースでの最初のピットストップ後に繰り広げられたホイール・トゥ・ホイールの大興奮バトルを詳しく分析することで、フェラーリの強さの実体が見えてくる。

 フェラーリダウンフォースをつけており、予選のスピードトラップではレッドブルの方が7km/h速かった(フェルスタッペンは、チームメイトのセルジオ・ペレスに次ぐ2番手、ルクレールは11番手)が、ラップを通して速度を確認すると、フェラーリは加速に優れていることが分かる。

 このことは、ルクレールとフェルスタッペンのバトルからも認められる。

 フェラーリは各コーナーの出口で引き離しており、レッドブルはストレートエンドで差を詰めている。これは、フェルスタッペンがオーバーテイクを仕掛けたのがターン1で、ターン4ではなかった理由である。

 フェルスタッペンのレースエンジニアが T4 で仕掛けることを伝えた際、フェルスタッペンは「分かってるけど、ターン1で近づくことができないんだ」と返している。フェラーリの優れた加速は、ターン4、8、10の出口でも発揮されており、GPS による速度追跡データから確認することができる。

 ターン4の出口から、ターン5手前にあるセクター1の終わりまでの区間で、加速中のフェラーリは、レッドブルよりも約3km/h上回っている。このラインを通過する際のルクレールは最速だが、フェルスタッペンは14番手だ。興味深いことに、ここで2番目、3番目に速いのは、周冠宇のアルファロメオミック・シューマッハーのハースで、どちらもフェラーリパワーユニットを使っている。

 もちろん、クルマの加速に違いが出る理由は、いくつかある。

 ギア設定は、最も単純な理由のひとつだ。フェラーリは、レッドブルよりも全体的にショートシフトしていたと思われる。予選では、トラック上の何箇所かで、ルクレールはフェルスタッペンよりも上のギアを使っていた。ターン4のブレーキングゾーン手前で、ルクレールは8速に入れていたが、フェルスタッペンは7速だった。ターン5では、フェルスタッペンは5速まで落としていたが、ルクレールは6速を維持していた。

 低速のターン8と10への進入では、フェルスタッペンは2速まで落とすが、ルクレールは3速。ターン10、11間のストレートでは、ルクレールトップギアに入れていたが、フェルスタッペンは7速。そして最終 T14/15 の複合コーナーは、ルクレールが4速、フェルスタッペンは3速まで落としていた。

 ギアレシオは、各チームがそれぞれ選択できるが、シーズンを通して固定される(今年は1回だけ変更が許されている)。フェラーリは、低速ギアで短めのギアレシオを選択したのかもしれない。または同じようなギアであっても、エンジンが強力なので加速に優れ、ギアシフトが早くなるとも考えられる。あるいは、それらの組み合わせか。

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2022年バーレーンGP予選でのパフォーマンス比較

 仮に、優れた加速がパワーユニットによるものだとすると、フェラーリはより大きなダウンフォースをつけることができる。最高速が抑えられたとしても、重要なのはストレートの端から端までの時間であって、ストレートエンドで到達する最高速ではないからだ。そしてこの場合、決勝では特に有利になる。

 パワーユニットの仕様が2026年まで実質的に凍結されることを考えると、フェラーリは大成功したように見える。