レッドブルとフェラーリ、大きく異なったジェッダ対策

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 サウジアラビアでは、レッドブルフェラーリがトップを奪い合ったが、このふたつのチームは、異なるやり方でペースを積み上げてきた。マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストともに、それぞれのセットアップのアプローチを解説する。

 先週末のジェッダでは、殆どのチームが様々なウィングレベルを試していた。このサウジアラビアのサーキットは、1周のアクセル全開率が極めて高く、モンツァに次いで、ドラッグがラップタイムに与える影響が大きい。

 だだし、ダウンフォースとドラッグの最適な妥協点がどこにあるのかは、それぞれのマシンの設計によって異なってくる。更に、新しい空力レギュレーションが導入されてまだ2レース目であり、各チームは様々なセッティングについて、シミュレーションと実走行との相関関係を取りながら、クルマがどう反応するのかを模索しているところだ。

 また、ポーパシング現象というやっかいな問題もある。いくつかのマシンは、フロアが路面に近づき過ぎ、床下の気流がストールすることによる上下動に悩まされている。これでは、シミュレーション上で理想的なウィングレベルが、実走行ではそうではなくなってしまう。例えばメルセデスは、シミュレーションでは得られていたダウンフォースの多くを、ポーパシングを抑制するために切り捨てているチームのひとつだ。

 結果として、ポーパシングに悩まされるチームは、リアウィングを薄くする方向に進む傾向になる。ポーパシングがそれ程でもないチームは、その分少しダウンフォースをつけることで、アドバンテージを得ているだろう。ここではストレートの速さが重要とは言え、ミディアムダウンフォースのウィングでも、同じようなラップタイムを出すことが可能だからだ。このウィングの場合は、ブレーキング時に多くのダウンフォースが得られるし、このサーキットに7箇所あるアクセルを戻すターンでは、ストレートが遅くても、それ程不利ではなくなる。

 重要なのは、ストレートエンドで到達する速度ではなく、ストレート区間に要する時間なのだ。コーナーを速く抜けてストレートへの進入速度を上げ、そこでリードすれば、ストレートエンドで多少遅くても大したロスにはならない。加えて、ダウンフォースが大きければタイヤを労ることができ、レースの各スティントが速くなる。

 これがフェラーリの方向性だ。下図に示すとおり、バーレーンとジェッダのウィングには僅かな違いしかない。バーレーンは、ミドル~ハイダウンフォースで走るトラックにもかかわらずだ。

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フェラーリのリアウィングは、サウジアラビア(上)とバーレーン(下)とで、よく似ている

 フェラーリはメインプレーン(2枚構成の下段の方)がスプーン形状で、中央部が大きく窪んでおり、両端はかなりスリムになっている。ドラッグの殆どは、フラップ(2枚構成の上段の方)ではなく、このメインプレーンで発生している。

 フェラーリのジェッダでのウィングを確認すると、バーレーンで使ったウィングと基本的に同じ形状をしており、中央部の窪みが浅い。これはローダウンフォースではあるが、それほどローダウンフォースではない。

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フェラーリサウジアラビア仕様のリアウィング詳細。メインプレーンの窪みが浅い

 レッドブルは、金曜日のプラクティスではバーレーンのウィングを試していたが、結局はそれよりもローダウンフォースのセッティングに落ち着いた。彼らのローダウンフォースのウィングは、フェラーリの同様のウィングよりも、間違いなくダウンフォースは少ない。バーレーンでのメインプレーンはスプーン形状だが、サウジアラビアの予選と決勝で使ったローダウンフォースのウィングはかなり直線的で、両端に向かってやや絞っている程度である。

 バーレーンのウィングは中央部が大きく、この部分で大きなドラッグとダウンフォースが生まれている。両端は薄くなっており、これはこの部分で得られるダウンフォースが、(エンドプレートとの干渉が原因で)明らかに中央部よりも少ないためである。つまり、僅かなダウンフォースしか得られないのであれば、この部分を切り欠いてドラッグを軽減した方が有利になるということだ。

 しかし、バーレーンで使われたような直線的なエッジを持つメインプレーンは横方向に広がる部分が小さく、メインプレーンで切り欠くことができる面積が殆ど無い。このような面積の小さいメインプレーンのドラッグは非常に小さく、ダウンフォースも小さい。

 従ってジェッダでは、フェラーリはコーナーとブレーキングで速く、レッドブルはストレートエンドで速かった。

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レッドブルのリアウィングは、サウジアラビア(上)とバーレーン(下)とで、大きく異なっている

 しかしバーレンでも、(ジェッダより)高いダウンフォースをつけた2台のクルマは同じような力関係だった。バーレーンの特定のコーナーでは、レッドブルフェラーリよりも速かったにも関わらず、レッドブルは変わらずストレートエンドで速かった。だが、フェラーリの優れた加速は、ラップタイムトータルで有利に働いていた。

 つまり、バーレーンサウジアラビアのふたつのサーキットは、大きく異なるダウンフォースが求められるが、フェラーリはどちらでもレッドブルよりも大きなリアウィングを選択したということになる。これには多くの理由が考えられる。仮にレッドブルがアンダーフロアでフェラーリよりも大きなダウンフォースを得ているとすると、同じダウンフォースを得るのに、リアウィングはそれ程必要ではなくなる。

 しかし、このように単純な話ではない。リアウィングとビームウィングは、アンダーフロアのパフォーマンスに影響を与える。リアウィング下の気流が増すと、ビームウィング上の気流が強く引っ張られ、同じようにして、アンダーフロアを抜けてくる気流がより強く引っ張られる。

 つまり、リアウィングを大きくすれば、アンダーフロアをより機能させることに繋がるのだ。これは夢のような話だ。何しろ、リアウィングを大きくしていくだけで、クルマがどんどん速くなるのだ! 言うまでもなく、この効果は次第に小さくなり、どこかでドラッグによる損失が得られるダウンフォースを上回ってしまう。ただし一般的に、グランドエフェクトというコンセプトでは、傾向として前世代よりも大きなリアウィングになる。

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リアウィングを大きくすると、アンダーフロアの働きも大きくなるが、ドラッグによる損失が上回り始める

 さて、ここでポーパシング現象を加味してみよう。フロアで発生させるダウンフォースに、理不尽な制限がかかってくる。車体の設計段階において、チームはポーパシングへの準備を殆どできておらず、フロアは設計上、実際よりも大きなダウンフォースを発生させるのだろう。

 ポーパシングの発生を避ける方法のひとつとして、リアの車高を上げるという安直なやり方があるが、これは非常に宜しくない。車体をポーパシングが発生する限界点に保つのにもっと良い方法は、薄いリアウィングで走行することだ。この方法であれば、少なくともドラッグが低くなるという恩恵を得られる。車高を上げる方法は、ある程度のダウンフォースを失う一方で、ドラッグの低下はほんの僅かなものだ。

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レッドブルがジェッダで使用した、小型のリアウィング

 つまり、リアウィングのダウンフォースとドラッグのバランスを取るポイントが、フェラーリよりもレッドブルの方が効率的で、彼らは同じようなダウンフォースを得るためにリアウィングを薄くするだけでよく、ポーパシングの問題も発生しないのかもしれない。あるいは、フェラーリよりもポーパシングが早く発生するため、実は薄いリアウィングで走らざるを得ないのかもしれない。

 レッドブルのビームウィングが、バーレーンよりもサウジの方が小さかったことには興味を引かれる。これらは薄いフラップ(上図)と共に、小型のリアウィングパッケージであり、ここでもドラッグが生じる。このビームウィングでは、ドラッグが抑えられるのと同時に、アンダーフロアの気流を引き抜く効果も小さくなる。

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ジェッダで使われたビームウィング(左)は、バーレーン(右)よりも小さい

 理由はどうあれ、フェラーリの優位性は、レッドブルよりも高いウィングレベルによるものだろう。他の要因として考えられるのは、フェラーリのパワーユニットが強力である可能性だ。GPS を解析すると、加速が非常に優れていることが分かる。これによりリアウィングを大きくすることができ、そうすることで、ストレートエンドでは遅くても、ストレート全体で見ると同じような時間で走ることができる。

 更に多くのサーキットでのデータが集まれば、実態が明確になっていくだろう。しかし今のところは、F1 で最速の2台は、まったく異なる手法でラップタイムを記録しているという結論になる。