スパを支配したレッドブル、その要因となった設計とは?

出典:

www.formula1.com

 F1 の技術エキスパートであるマーク・ヒューズが、2022年のベルギーグランプリにおいて、マックス・フェルスタッペンがチームメイトのセルジオ・ペレスを従え、楽勝するに至った要因を、レッドブルフェラーリのセットアップを比較しながら明らかにする。

 カルロス・サインツは、ベルギーグランプリでのレッドブルの優位性について、簡潔にまとめている。「彼らは予選でも決勝でも強くて、タイヤマネジメントでもストレートでも優れていて、コーナーをはじめ、色んなところで速かった。僕らの速さは十分ではなかった、不運なことにね」

 今シーズン、レッドブルフェラーリをここまで凌駕したことはなかった。これはスパが、バクーやモンツァよりも更に高い、最大級の空力効率を要求するサーキットであることと無関係ではない。スパの第2セクターは、第1、第3セクターよりも長く、この中間セクターでは、ダウンフォースが重要になる。一方、第1、第3セクターは、ドラッグの低さが重要になる。ダウンフォースはドラッグを生むため、これらは正反対の要求なのだ。

 それぞれのマシンの速さを比べてみると、レッドブルは第1、第3セクターフェラーリより僅かに速く(S1 で 0.054秒、S2 で 0.162秒)、第2セクターでは更に速い(0.377秒)。これらは予選でのタイム差だが、実際はもっと大きいかもしれない。マックス・フェルスタッペンはグリッドペナルティが決まっており、先頭でのスタートが懸かっておらず、Q3 で1周しかしなかったからだ。

 決勝では、予選より燃料が 30kg 多く、より硬いタイヤを履いた状態で、シャルル・ルクレールが最後にファステストを狙ったタイムよりも 0.6秒速かった。スパでの 30kg の燃料は、ラップタイムにすると約1秒に相当する。つまり、予選でフェルスタッペンがサインツに対してつけた 0.65秒の差は、実力を反映していないと考えられるのだ。

レッドブルスパ・フランコルシャンのセクター2で他を圧倒した

 スパのレイアウトは、空力効率が極限まで重要視されるがために、今シーズン走行した他のどのトラックと比べても、レッドブルの優位性がまったく異なる大きさに拡大することとなった。では、どのようにして、そうなったのだろうか?

 まず、ウィングレベルを確認してみよう。フェラーリは、手持ちのふたつのウィングのうち、大きい方を選んだが、それでもレッドブルよりは面積が小さいものだった。レッドブルは実質的にフェラーリよりも大きいウィングで走行している(これは 2022年のこれまでの傾向とは反対である)。

 これによって、中間セクターの高速コーナーでの RB18 の優位性には、いくらか説明がつく。では、にもかかわらず、どのようにしてセクター1 と 3 の長い全開区間でも若干のアドバンテージを残せたのだろうか。

 フェルスタッペンとサインツの予選ラップを重ねてみると、フェルスタッペンはラ・ソースの立ち上がりが良く、オー・ルージュの手前までが速い。オー・ルージュと残りのケメルストレートはフェラーリが速いが、大差ではない。レッドブルは、連続する全開区間で僅かに遅いことによるロスよりも、ラ・ソースを上手く立ち上がることで得られるタイムの方が少しだけ大きかった。

青はフェルスタッペン、赤はサインツが速かった区間

 セクター2 に入るとレッドブルは、その優れた回頭性能を生かして真価を発揮する。しかしサインツは、決意を持ってトップギアでプーオンを抜け、ファーニュシケインのブレーキングゾーンまでアドバンテージを得ている。

 しかし、サインツの勇敢な走りで稼いだタイムがあっても、このセクターでは 0.4秒近く遅れており、残りの区間でいかにレッドブルが速かったのかを示している。

 セクター3 は殆どが全開区間で、トップギアで抜けるブランシモンがあり、ターン15(ポール・フルーレ)のコーナリングしつつ加速するところから始まる。ここでのレッドブルは非常に速く、曲りくねるストレートを下り切るまでのアドバンテージを持っている。

 セルジオ・ペレスとポールを激しく争っていたサインツは、バスストップシケインでフェルスタッペンよりもブレーキングを遅らせ、進入速度は速かったが、立ち上がりからスタート・フィニッシュラインまでは遅れている。レッドブルの優れたトラクションによるアドバンテージだ。

スパの FP2、フェラーリはビームウィングのフラップが1枚の超ローダウンフォース仕様のリアウィングを試したが、予選と決勝では、メインプレーンとフラップの両端部が薄い、バクーのときのスプーン形状を持つウィングを選択している。しかしこれでもまだ、レッドブルが選択したウィングより薄かった(下図)

 スパで求められる空力効率の絶対的な鍵は、車高が高いときにダウンフォースを維持することだ。ラ・ソースヘアピンやタイトなシケインから、超高速のプーオンやブランシモンまで、スパのコーナリング速度は極端に幅があり、またオー・ルージュではマシンが強く押し付けられるため、チームは車高を大きく上げざるを得ない。

 高速コーナーでは、ダウンフォースによってマシンはサスペンションに押し付けられるが、ダウンフォースが抜けてしまう低速コーナーでは、マシンはそのセッティングに関係なく、高い車高に戻ってしまう。アンダーボディのヴェンチュリー効果が薄れるため、車高が高いと、かなりのダウンフォースが犠牲になる。

フェラーリのウィングは、レッドブルよりも少し薄い。上図は予選でのこれらの比較

 高い車高でもダウンフォースを維持できると、スパではかなりのラップタイムを稼ぐことができる。車高は可能な限り下げたくなるものだが、そうすると、ストレートエンドや高速コーナーで低くなりすぎ、バウンシングやポーパシングが出て遅くなってしまうリスクがある。

 これがフェラーリに見られたことだ。サインツは低速のリバージュ、タイトなスタブロ―とバスストップでフェルスタッペンより速かったが、決勝では終始、縁石に乗るなと注意されていた。技術指令書によって新しく義務付けられた、マシンの垂直方向の加速度を制限内に収めるためだ。

 また、ここ数戦と比べて(低い気温と高速のため)冷却要求が低いことを考慮し、レッドブルがドラッグを軽減したエンジンカバーを使ったことも、要因として挙げられる。

 これらの要素によって、レッドブルは、高速域での素晴らしいダウンフォースと低速域での良好なダウンフォースの両立、滑らかな車高変化、競争力のあるストレートスピードを得ることができたと考えられる。これにより、空力効率で大きなアドバンテージが生まれ、スパの週末を圧倒的なものになったのである。