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レッドブルは、シーズン序盤の対フェラーリのパフォーマンスを逆転し、両チャンピオンシップで大きな差を築いた。だが、どうしてこうなったのだろうか? マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に、2022年の開発競争に注目する。
今年のレッドブルとフェラーリの相対的なパフォーマンスは、ここまで消化された16戦中、第12戦のフランスグランプリで、レッドブル側に傾いたように見える。
それより前は、パフォーマンスがリザルトと結びついていなかったものの、フェラーリが最速であることが多かったが、フランス以降は、フェラーリの苦戦をよそにレッドブルがパフォーマンスとリザルトを伸ばし、支配的になっている。
これには技術的な要素が複雑に絡み合っているが、当時の両者の開発の方向性から、手掛かりを見出すことができる。
フランスグランプリの週末に、両チームは新しいフロアを持ち込んだ。
レッドブルは、アンダーフロアで発生する空力的な重心を後ろへずらすことで、より小さなリアウィングでも同様のバランス特性を得ることが明確な目標になっていた。このことで、かなりの暑さになるとの予報が出ていた週末でも、長いコーナーでタイヤに目一杯の負荷をかけることなく、ストレートスピードを得ることが可能になった。
しかし、レッドブルの基本的な開発方針は、開幕以降ずっと、フロントを強くしていこうというものだ。そしてこの方針の大部分は、リアよりもフロントをより軽量化することで達成された。
マックス・フェルスタッペンは、モンツァでこう説明している。「マシンはかなりオーバーウェイトだった。(重い)位置も悪くて、大きなアンダーステアや、フロントがロックし易い原因になっていたんだ」
マシンの重量配分を変えると、空力的な重心も適切に調整し、これらを一致させておくのが理想的だ。そうしないと、高速コーナーと低速コーナーとで、特性が異なってしまう。
フロントの重量を削減(重心を後ろに移動)させると、空力的な重心も後ろへ移すことができるようになる。レッドブルは、どちらかと言えばリアウィングではなくフロアの調整によって、この移動をおこなってきた。
この空力的な重心の後方移動を、重量配分よりも控えめにすれば、フェルスタッペンが好むフロント寄りのバランスにすることができる。他のドライバーには扱えないようなリアの不安定さでも、彼は乗りこなしてしまう。
いったん軽量化してしまえば、不適切な重量配分に足を引っ張られることがなくなり、チームはマシンの空力セッティングによって、様々なハンドリング特性を試せるようになる。
軽量化によって、フェルスタッペンのエンジニアは、コーナーのより広い速度域において、大きな空力バランスのセットアップウィンドウを得たのだろう。「僕たちは色んな種類のトラックで、多くの難題に直面するけど、今のマシンはどのトラックでも本当にうまく機能している」と、フェルスタッペンは語る。
ハンドリングへの影響を除外したとしても、軽量化そのものがラップタイムの短縮につながる大きな要素だ。他に何も変更せず、10kg の軽量化をおこなうだけで、ラップタイムにして 0.3秒の価値があると言われる。
フランスより前の11戦において、レッドブルはドライコンディションの予選で、フェラーリから平均 0.176秒遅れてていた。シーズン開幕時、フェラーリは最低重量からの超過がほんの僅かであり、このことだけで、シーズン序盤における小さなアドバンテージの一部か、あるいは全部が生まれていた、という説明も可能ではある。
つまりレッドブルが重量を削減できれば、それだけでフェラーリとの性能差が逆転する、という理屈である。
下表に、フランスより前の11戦での(信頼性や戦略によるリザルトの変化を含まない)純粋なパフォーマンスを示す。
イベント | 相対パフォーマンス |
バーレーン | 僅かにフェラーリ |
サウジアラビア | ほぼ互角 |
オーストラリア | フェラーリ |
イモラ | |
マイアミ | レッドブル優勢(またもフェラーリにグレイニングが発生) |
スペイン | 明らかにフェラーリ |
モナコ | 僅かにフェラーリ(しかし戦略が悪かった) |
アゼルバイジャン | ややフェラーリが優勢 |
カナダ | まったくの互角(違いと言えば、フェルスタッペンとカルロス・サインツの予選ラップくらいか) |
イギリス | レッドブル |
オーストリア | フェラーリ |
まとめると、11戦のうち 6戦でフェラーリ、3戦でレッドブルの方が速く、2戦は甲乙つけがたい。
それ以降の5戦では、しばしば予選ではそうなっていないものの、どのトラックでもフェルスタッペンのレッドブルの方が速かった。
スパ・フランコルシャンでは、レッドブルはシーズンを通してどのマシンも得たことのないほど大きなアドバンテージを持っていたし、これらの 5つのトラックで、フェラーリはレースペースでレッドブルに匹敵することができなかった。
これは、レッドブルの軽量化とバランスの調整だけによるものとして、説明できるのだろうか? フェラーリのボス、マッティア・ビノットは、この 5戦での F1-75 には、明らかに問題があったことを認めている。
「マシンのバランスに問題を抱えていた。バランスが決まらないままで、タイヤをオーバーヒートさせてしまい、デグラデーションが大きくなった」と、ビノットはモンツァで語っている。
「マシンのバランスが正しくないことは分かっていた。その原因は、あそこで持ち込んだ空力開発だったのだが…、我々は首をかしげていた」
フェラーリがフランスでアップデートしたフロアは、ダウンフォースの総量を増加させるもので、内側のヴェンチュリー・トンネルの吸気口を高く上げ、マシンのリアへ向けより多くの気流を導くように再構築された。
フェラーリは、目標としていたダウンフォースを得られたと判断したようだが、このことでバランスが変化し、以前よりもアンダーステアの傾向が強くなったと考えられる。
ドライバーが通常のやり方でバランスを調整することはできるが、ビノットが言う通り、それがタイヤの問題を引き起こしたのかもしれない。