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レッドブルとマックス・フェルスタッペンが記録的な走りでタイトルに向かった2022年シーズン、マーク・ヒューズが、最も革新的したマシン、最も躍進したマシン、最も開発されたマシン、そして最も支配的だったマシンを選出する。技術イラストは、ジョルジョ・ピオラの提供。
最も革新的なマシン: Ferrari F1-75
今シーズン最も大きな2つの革新は、ひとつのマシン、F1-75 で確認することができる。空力面では、切り立ったアウトウォッシュ重視のサイドポッドと、上面の独特なチャネルにより、フロアとリアウィングのパフォーマンスを見事に両立させている。
次に、見栄えの良いエンジンカバーに隠された、新開発の 066/7 パワーユニットである。これは他とは大きく異なっており、低速域で爆発的な加速性能を発揮する。
ライバルと比べ、そのターボは小さく、長い吸気管を持つ。それにレギュレーションで500バールに制限されている燃圧を最大限利用する超高速点火システムを合わせて、低速域での立ち上がりを底上げしている。
未だ信頼性に課題を残すものの、その独特な空力とパワーユニットでもって、見事にポール・ポジションを連発した。何よりマラネロに在籍する想像力豊かな開発者の層の厚さを示すことになった。
最も躍進したマシン: ハース
2021年のハースは、予選のペースが 3.2% 遅れで間違いなく最も遅かったが、'22年は 2% 遅れの8番手まで巻き返した。
これは大したことではないように聞こえるが、パフォーマンスの伸び代はグリッド上で最も大きい。これにより、中団からも置き去りにされ孤独なレースをしていた状況から、そこに加わるようになり、時には中団の先頭に立つことすらあった。
ケビン・マグヌッセンの開幕戦バーレーンでの5位は、『ビッグ3』に続く順位であり、ブラジルの Q3 ではドライで走れる短時間のチャンスを活かして、土曜のスプリントに向けて衝撃的なポール・ポジションを獲得した。これらの活躍は、2021年からは想像もつかないものだ。
VF-22 は、フェラーリから刺激を受けたチームが、新しい空力レギュレーションに合わせて開発したマシンであるのに対し、’21年のマシンは元々2018年から走らせていたものだ。
この躍進の多くがフェラーリの新型パワーユニット 066/7 によるもの(競争力の上昇度では、フェラーリとアルファがハースに続き、トップ3を形成)だとしても、VF-22 は比較的、空力面で優れたマシンだ。
冷却系も全てフェラーリのコンポーネントであることから、その空力コンセプトも非常に似通っており、切り立ったサイドポッドでマシンの外側へ気流をアウトウォッシュしている。また、フロントタイヤを素早く機能させられるのもフェラーリと同じ特性で、スリックでダンプコンディションを走ることになったインテルラゴスでのマグヌッセンのポール・ポジションに大きく貢献した。
シーズン中、最も開発されたマシン: Mercedes W13
問題を抱えたメルセデス W13 を前に、チームは空力的なポーパシングと機械的なバウンシングの理解とコントロールに苦しみ、シーズン序盤の決勝では、勝者から概ね30秒遅れていた。しかし最後から2戦目には、ジョージ・ラッセルとルイス・ハミルトンがチームに1-2フィニッシュをもたらした。
開発の余地が大きかったことは認める必要があるものの、他のどのチームよりもシーズン中にマシンを進歩させたことを示している。
これは、絶え間なくアップデートを投入するのではなく、車体の問題を深く分析し、それを軽減する方法を良く理解することで達成された。
これらの問題の引き金となる幾つかの原理(露出面の大きいフロア、可動域の小さいリアサスペンション)が、このマシンには組み込まれていた。しかしその状況下で、マシンをウィンドウに入れられるオペレーションを見つけ出したところから、前進が始まったのだ。
空力的なポーパシングには多くのチームが悩まされており、車高を設計された高さよりも上げて走行しなければならなくなる。しかし、サスペンションは可動範囲の制限があるため、車高を上げるにも限界がある。同様に、サスペンションを更に硬くすることも必要で、このこと自体がバウンシング現象を引き起こす原因となってしまう。
ストールを誘発したりポーパシングのきっかけとなるようなフロアの特性を抑制すると、シミュレーションでのダウンフォース量を生成できず、これを埋め合わせるために大きなウィングで走行しなければならなくなる。これではドラッグ面で不利になってしまい、レッドブルと比較すると顕著だった。
フロアを調整し、フロントホイールでの気流の乱れを良化する斬新なフロントウィングの登場もあって、空力的にマシンを安定させられるようになり、大きなウィングからも豊富なダンフォースが得られた。
それほどバンピーではなく、ストレートが短いトラックでは、競争力を発揮できるようになり、オースティンでフロントウィングとフロアを改良し、大きな軽量化をおこなってからは、特に強くなった。同時に、これらの改良をおこなった3つのトラック(COTA、メキシコシティ、インテルラゴス)は、このマシンとの相性が良く、パフォーマンスは向上し、ブラジルで優勝するに至ったのである。
最も大きなアドバンテージがあったマシン: スパでのレッドブル
レッドブル RB18 が持つアドバンテージの鍵は、リアの車高が最も高くなる低速コーナーでも、ダウンフォースを維持できていたことだと考えられる。2022年からの規約で定められた大きく、パワフルなアンダーボディは、高速域で巨大なダウンフォースを発生させ、マシンはサスペンションに強く押さえつけられる。
しかし、低速コーナーで速度が落ちると車高は上がり、パフォーマンスの多くが失われる。空力面での争点は、高速走行時の最大ダウンフォースではなく、如何に広い速度域でダウンフォースを得られるかに移っていった。この点で RB18 は間違いなくベストであり、スパのレイアウトは、これを示すのに格好の舞台だったのである。
セクター1と3のロングストレートは低速コーナー(バスストップ、ラソース、レコーム)で区切られており、セクター2は高速でのダウンフォースが求められる。つまり、最も空力的に優れたマシンはどれかを問うレイアウトであり、レッドブルは他とは別次元にいたのだ。
予選で最速タイムを刻んだマックス・フェルスタッペンは、ペナルティで14番手からスタートしたものの、レース距離の3分の1で先頭に立ち、後続を引き離した。彼の最速ラップは、燃料がまだ約30kg 残っている段階で、かつミディアムタイヤで出したものだったが、シャルル・ルクレールが空タンクで新品のソフトタイヤを履いて出したものより速かった。
フェルスタッペンが予選で最低限のことをしただけでなく、いつも通りプッシュしたとすると、RB18 が実際に持っていたアドバンテージは 1.5秒程度だったと考えられる。
今シーズンのマシンの中で、ダントツの性能差を見せつけたのだ。