出典:
レギュレーションにより、2020年型シャシーを2021年も継続するという制限にもかかわらず、フロアとディフューザーやリアブレーキダクトの制約に対し、各チームは最適化の方法を相変わらず巧妙に見つけ出してきた。
この素晴らしいシーズンを通して、さまざまなレベルでの成功を目にすることができた。そのひとつが、ハイブリッド世代のメルセデスによる支配を、遂にレッドブル・ホンダが打ち破ったことである。しかし、これは紙面のトップを飾るタイトル争いに過ぎない。これら2チームの技術面の話題も興味をそそるが、他にも注目に値するものがある。
昨年からの躍進 ― アルファロメオ C41
アルファロメオは、コンストラクターズチャンピオンシップで9位と残念な結果に終わったものの、他のどのチームよりも予選でのパフォーマンスを上げたチームで、2020年は 2.9% 遅れだったものを、'21年は 1.9% に上げてきた。これは次に躍進度の高かったチームよりも約 0.25% 高い。
この数字は、ふたつの後押しによるものだ。C41 は、パワー面と空力面の両方で、旧型の C39 よりも競争力がある。パワーは供給元であるフェラーリが押し上げたものだが、基準となる2020年は非常に低レベルで、メルセデスのパワーユニットを使うウィリアムズより約60bhp劣っていたものが、'21年はそれが約半分になっただけだ。
空力面における改善の鍵は、前年の幅の広いノーズを、メルセデスの影響を受けたスリムなノーズに取り換え、ノーズ下のケープと合わせて、バージボードへ向ける気流をより効果的に調整できるようにしたことだ。ここにトークンが使われている。
非常に特徴的な大きく風を受ける形状のフロントウィングはそのままだが、更に独特の要素が加わった。メインプレーンの裏側を平坦にして地面に近づけ、路面との間隔を小さくすることで、最大限のグランドエフェクトを得ている。
こうすると、ブレーキング時のノーズの沈み込みによってストールする懸念が出てくるが、これに対しては、エンドプレートにスロットを切り、ストールが起こる際にそこから空気を抜き、ウィング裏面の働きを維持している。
オフシーズン最大の開発 ― レッドブルとフェラーリ
RB16 を RB16B に進化させるにあたり、レッドブルは、レギュレーションによる開発制限にもかかわらず、大きな改良を成し遂げた。ホンダの新型パワーユニットがより小さく、よりパワフルになったことで冷却要求が緩和されただけでなく、リアサスペンションにも抜本的な見直しが図られた。
リアのロワウィッシュボーンを後方へ移動させ、ディフューザー周辺の空力的に貴重な空間をより大きくしたのである。これは、シャシー側のマウントポイントの接続対象を変え、後方のマウントポイントであるギアボックスケーシング長くすることで達成された。この新しいギアボックスにトークンが使われている。
フェラーリも似たようなことをおこなった。燃焼効率を大幅に高めた PU と、リアサスペンションの後方への移動だ。だだしフェラーリはそれに加えて、新型のギアボックスケーシングを搭載するにあたって、ディファレンシャルの位置もやや高くし、周囲の気流の増加させている。ただしこれは、重心が上がるという代償を払っている。
レッドブルは、予選におけるメルセデスからの遅れを2020年の 0.7% から 0.1% 未満に縮め、フェラーリは 1.4% から 0.7% に詰め寄った。
シーズン中の最大アップグレードパッケージ ― メルセデス W12、シルバーストン
メルセデスは、シルバーストンのアップグレードで、W12 シャシーのフロント部分の気流の取り扱いを完全に変えてきた。この変更は、サイドポッドの外側へ幾らかの気流を逸らし、アンダーフロアへ向かう気流を変えることで、ディフューザーのストールをより効率的に発生させようというものだ。
車速が上がることで生まれるダウンフォースによってマシンのリアがサスペンションに押さえつけられると、ディフューザーの跳ね上げ角が、車体裏面の平坦な部分に対して、十分な角度を持たなくなり、そこで必要な圧力差が得られず、ディフューザーと、ディフューザーがリアウィングの下側へ拭き上げる気流がストールする。
このストールが起こるとドラッグが大きく減少し、ストレートラインスピードが増すのだ。これによってシーズン後半のメルセデスは、より大きなウィングとレーキ角をつけることができ、ストレートラインスピードを増しつつ、レッドブルに対してコーナーでのアドバンテージを徐々に取り戻していった。
費用対パフォーマンス ― アルファタウリ AT02
アルファタウリ AT02 は、(トークンを使って開発した)スリムなノーズの性能と、改良されたホンダ RA621 パワーユニットによって、コンストラクターズ選手権6位に相応しいマシンとなった。
予選の平均グリッドは目覚ましく、彼らよりも規模が大きい、フェラーリやマクラーレンに迫るものだったし、大きく進歩したレッドブルと比較しても、大きなゲインを得ていた。2020年、予選でのアルファタウリは、先頭集団の姉妹チームから平均 0.9% 遅れていたが、今年は 0.7% に縮めている。
このふたつのチームは、パワーユニットのアップグレードによる恩恵は同じだが、アルファタウリがフロントエンドの空力を改良したことによるゲイン(レッドブルは2020年の段階で、この改良を実施済み)の方が、レッドブルがリアを再構築したことによるゲインより大きかったことになる。
最大サプライズ ― ウィリアムズ FW43B
ウィリアムズは、10台中9台目に速いマシン(ハースより速いだけ)にとどまったが、サーキットの特性と天候との巡り合せによって、ジョージ・ラッセルが何度か際立った結果を残した。スパでのフロントロウ、ソチでの2列目、シルバーストンでの8位である。
旧型マシンとの差異で鍵となったのは、高く配置されたラジエーターの冷却系で、これによりエンジンカバーは大きくなってしまうが、シャシーリア下部のコークボトルをより極端にして大きな空間を確保し、車体側面を抜ける気流や、ディフューザー周辺の気流を強くすることで、アンダーフロアの気流の速度を上げているのだ。
絞り込みの極端なコークボトルとワイドなノーズの組み合わせは、空力的にピーキーになりがちで、風の影響も受けやすくなる。しかし風が弱ければ、長いコーナーで大きなダウンフォースを得ることができた。
独創性 ― マクラーレン MCL35M
ディフューザーの外側のベーンの長さを短く規制するレギュレーションに対するマクラーレンの効果的な対応は、中央部のトンネルの壁をベーンに見立てることだった。これは規制の適用外にあるマシン中央部に含まれているのだ。
これは一般的なディフューザーと比較して若干の性能差しか持たないが、効果は覿面で、マクラーレンは3番目に速く、コンストラクターズ選手権でフェラーリと3位の座を争った。しかもモンツァでは、今シーズンは他のどのチームもできなかった1-2フィニッシュを達成している。