レッドブルとホンダは2020年のRB16をどのようにタイトル獲得マシンRB16Bに進化させたのか

出典:

www.formula1.com

 マックス・フェルスタッペンが、アブダビでのシーズンの最終戦を劇的かつ物議を醸す勝利で飾り、レッドブルのドライバーとして8年ぶりのワールドチャンピオンに輝いた。

 フェルスタッペンのパフォーマンスはさておき、チームとホンダの両者による開発面においても、ここ数年のピークに達していた。彼らは一丸となり、メルセデスがこれまで持っていた圧倒的なパフォーマンスのアドバンテージを着実に切り崩していった。

 これを成し遂げたマシン RB16B は、チームの伝統的な空力コンセプトであるハイレーキを踏襲している。感染拡大による経済問題に対応するため、2021年に向けて全チームに開発を凍結する規制がおこなわれた状況下で、昨シーズンの RB16 をベースに極めて効率的な開発をおこなったと言える。

 今回は、その飛躍的なパフォーマンス向上の土台となった要素を紹介する。

パワーユニット

 Honda RA621 は、レギュレーションで許可された範囲内での完全な新設計のパワーユニットで、2020年型よりもコンパクトでパワフルに仕上がっている。目玉として大きく変えられたのは、燃焼室の効率化と、新設計のシリンダーヘッドに接続する排気系でのエネルギー回収のふたつである。

 バルブ角(吸排気系バルブの角度)を狭くすることで、ヘッドを低く、カムシャフトの直径を小さくすることが可能になった。エンジブロックに異なる素材を採用し、シリンダーの間隔も狭くなっている。

Honda RA621 は、実質的に新設計のパワーユニット

 奥行きは、2015年のVバンクにターボを収めた悪名高い「サイズゼロ」よりも更に小さくなっており、これによりマシン後部のパッケージをタイトにし、空力性能の向上に寄与している。また要求する冷却性能も低くなったため、レッドブルの空力チームはラジエーターの給排気口を小さくすることができた。

 1年を通してパワー面でメルセデスと渡り合い、2020年とは対象的に、僅かながらもストレートでデプロイを長く使えていた。

 マイレージを重ねたときのパフォーマンスの劣化がメルセデスよりも小さく、チームのボス、クリスチャン・ホーナーは、新品と寿命が近いユニットとの差を、ラップタイムにして0.1秒程度と見込んでいた。フェルスタッペンは、シーズン3基の割り当てを、僅か1基超過したのみだった。しかも、シルバーストンのクラッシュによって本体に亀裂が入り、1基を失った状況でだ。

リアサスペンション

 '21年はレギュレーションでチームが開発できる範囲を制限しており、それに沿って導入された開発トークンシステムによって、2020年のシャシーは維持しなければならず、これを '21年仕様に適応させることとなった。

 レッドブルはギアボックスケーシングを新しくするのに、ふたつのトークンを消費した。これによってリアサスペンションを全面的に見直し、大きく後方へ移動させる(同様のことを2020年にメルセデスがおこなっている)ことで、リアホイールとディフューザーとの間隔を広げることができた。これは空力的に、非常に価値のある空間なのである。ここを抜ける気流の速度が上がれば、ディフューザーによってアンダーフロアの気流がより強く引き抜かれ、マシンのダウンフォースが増加するのだ。

 ギアボックスケーシングにふたつのトークンを使用したことで、レッドブルはサスペンションのマウントポイントを昨年のまま維持する必要があったが、各マウントポイントの接続対象を変えることで、後方への移動を実現した。下段のウィッシュボーン(の車体側の接続)は、以前は後方のアームを接続していたマウントポイントに前方のアームを接続することで、前方から後方へ移動させたのだ。

 後方のアームは以前はトーリンクがあったポイントに接続し、ドライブシャフトの後方にあったトーリンクは、前方のアームのマウントポイントだったところに接続している。

2020年仕様(左上の円内)の RB16 と、2021年仕様(右上の円内)の RB16B との、リアサスペンションの違い。下図の通り、マウントポイントを変えている
ディフューザー、バージボード、フロントウィング開発

 オーストリアで連続開催されたふたつのグランプリでは、レッドブルは2週続けて新型パーツを運び入れる熱の入れようで、空力開発に取り組んでいた。

 ディフューザーの上端全幅に『鮫の歯』形状を施し、小さな渦を発生させている。これらはディフューザーの上にあるガーニーフラップと相まって、この渦をより効果的に活性化している。

 オーストリアの2連戦では、両端を更に跳ね上げた新しいフロントウィングも持ち込んでいる。これは同じく新しいバージボードと共に、新型のより強力になったディフューザーの性能を最大限まで引き出すよう、気流を調整するものだ。

レッドブルリンクで登場した『鮫の歯』形のエッジを持つディフューザー

 全体として、レッドブルは昨年を上回る極めて効率的なで空力開発をおこない、パワーを増した Honda の後押しもあった。そしてフェルスタッペンのドライビングによって、ハイブリッド世代のメルセデスによる独占を打ち破るに至ったのだ。ただ...