問題続きのメルセデス、シルバーストンのアップグレードで反撃を狙う

出典:

www.formula1.com

 シルバーアローは、2022年イギリスグランプリに大きなアップグレードパッケージを持ち込むことになっているが、彼らが取り組んでいる問題とは何なのか、そしてこのホームレースが、今季の重要なターニングポイントとなり得るのは何故か、マーク・ヒューズが、今週末のメルセデスが目指すものを解説する。

 メルセデスは、シルバーストンの滑らかな路面と高速コーナーでは、バルセロナで発揮したようなパフォーマンスに近づけるのではないかと期待を寄せてる。スペインの決勝では、新設計のフロアによって、それまで悩まされていた空力的なポーパシングが比較的抑えられ、非常に競争力があり、そのおかげで、ジョージ・ラッセルレッドブルと争い表彰台を獲得し、ルイス・ハミルトンは1周目にケビン・マグヌッセン接触後、素晴らしいペースで追い上げた。

 しかしながら、その後の数レース、モナコ、バクーと、モントリオールでは、それとは異なるものの、関連している問題が発生した。メカニカルなバウンシングである。この現象は、タイヤやシャシーの剛性と、リアサスペンションが対処しきれないことによる問題だ。バンピーなトラックほど、この問題は悪化する。

 つまり、ここ4レースで、メルセデスは平坦で高速な空力負荷の高いコーナーでは速いが、バンピーなトラックでは大きな妥協を強いられることが明らかになった。高速域でのバウンシングを軽減するため車高を上げることによって、ダウンフォースを失うためだ。この時のマシンは、繰り返し路面を叩き、サスペンションの上を高い周波数で上下動する。

このジョルジョ・ピオラのイラストで、挿入図がスペインGPでのメルセデスのオリジナルフロア

 ここ数年、他よりも小さいレーキでクルマを走らせていたメルセデスが、固く、可動範囲の狭いリアサスペンションでもって、車体のレーキ角のレンジを制限する方向へ開発を進めたのは、偶然ではないだろう。

 ハイレーキのクルマには、より柔らかく、可動範囲の広いリアサスペンションが要求される。新世代のマシンは、アンダーボディのヴェンチュリートンネルの効果を最大化するため、当時のメルセデス以上に少ないレーキで走行するが、必要なサスペンションの可動域は大きくなる。2022年のタイヤはサイドウォールがかなり低くなり、サスペンションとしての働きが小さくなったので、尚更である。バネ下(ホイールのように上下動しない部分の)重量も、タイヤやホイール、ブレーキが大きく、重くなったことにより、増大している。

 メルセデスは引き続き問題解決に取り組んでおり、テクニカル・ディレクターのマイク・エリオットは先日、こう語っている。「シルバーストンには新しいものを入れるつもりだ。今あるマシンを更に良くしてペースを引き出すと共に、新しいものも加えようとしている」

今シーズン、大きくなったタイヤも、全10チームを設計哲学の変更に向かわせた

「それと同時に、自分たちについて正直でなければならないと思っている。今現在、先頭を行くフェラーリレッドブルからは、少し遅れを取っている。普通にレースをしたら、厳しい展開になるだろうね」

「シルバーストンは、バルセロナがそうだったように、少しばかり相性のいいサーキットだとは思うが、少し厳しいかもしれない。どうなろうとも、全力でプッシュするだけさ」

 路面が滑らかなトラックでは、新しいパーツが、直面している問題に効果を発揮しているかどうかを評価するのが難しい。また、シルバーストンは、カナダで公表された、全マシンの垂直方向の振動の大きさを監視する旨の FIA 技術指示書の第2段階となる。

メルセデスはスペインGP程度のパフォーマンスを期待しているが、シルバーストンの滑らかな路面では、アップグレードの効果を測るのは難しいだろう

 モントリオールでのデータ収集を経て、今週末は、マシンに設置したセンサーのデータを用いて、これらの強さを一定範囲内に収まるよう、車体を規制する最初の試みとなるはずだ。

 FIA 技術指示書は、全マシンに一律の車高を強制するというより、バウンシングを一定の範囲内に収めること、そして各チームがどのようなセットアップにおいてもそれを容易におこなえることを目指しているようだ。ひょっとしたら、振動の少ないレッドブルは、彼らの理想的な車高で走行を続けられる一方で、バウンシング問題に苦しむチームは、以前よりもパフォーマンスに妥協を強いられるかもしれない。

 繰り返すが、シルバーストンは、他と比較して路面が滑らかであるため、このルールが大きく影響するようなトラックではないはずだ。しかし、マシンに手を焼くメルセデスの戦いにおいて、イギリスグランプリは大きなマイルストーンとなるだろう。