ある重要なパフォーマンス要素における、レッドブル、フェラーリ、メルセデスの違い

出典:

www.formula1.com

 レッドブルフェラーリ、そしてメルセデスの今シーズンの相対的なパフォーマンスを評価するにあたり、空力特性の違いや、各トラックレイアウトの向き、不向きが注目されてきた。しかし、少なくともこれらと同程度の重要性があるにもかかわらず、これまであまり話題にならなかったパフォーマンス要素がある。それはタイヤ ― RB18、F1-75、W13 がどのようにタイヤを機能させるか、である。

 タイヤの挙動に関する要素は、重量配分、サスペンションジオメトリー、タイヤ圧、ブレーキバイアスを始め、それこそ無数に存在するが、おそらく最も重要なのは、ブレーキからホイールリムを介し、間接的にタイヤの温度をどれくらいコントロールできるか、であろう。これは非常に複雑な問題だ。

 タイヤの最適温度は、コンパウンドにも依るが、100 ~ 150℃の間である。およそ 6インチの距離にあるカーボンブレーキディスクは、500 ~ 1,000℃に達する。求められるのは、タイヤの温度をその狭い作動温度領域内に維持することで、駆動するリアよりも、駆動しないフロントの方が厄介である。

 リアタイヤを冷却するには、ブレーキの熱をホイールリムから逃がすことだけに集中すればよいが、フロントの場合は、予選やレースのスタート、リスタート時など、限られた時間で温度を上げるため、ブレーキの熱をタイヤにより多くまわすことがアドバンテージとなることがある。

 ブレーキダクトには、気流のチャネルとしての役割が求められる。更にフロントの役割はリアよりも複雑で、傾向としてより入り組んだ構造になってゆく。そしてこの点で、レッドブルフェラーリメルセデスとの間に大きなバリエーションが生まれたのだ。

フェアリング再設計後のレッドブルのブレーキアッセンブリ。一部の熱処理用カバーが取り外されている

 その上、今年はレギュレーションでホイールリムが標準化されたため、ダクトに求められる複雑さは増すことになった。これまでホーイルリムはチームが独自に設計し、内側に様々な切り目を入れることで表面積を変化させ、トラックやマシンの特性に応じて異なる熱吸収率を実現していたのだ。

 また、2022年の新レギュレーションでは、ブレーキを抜けた冷却気流は、ホイールのスポークからではなく、後方の単一の排気口を通すように要求されている。以前はスポークからの排気を、フロントタイヤの外側を流れてくるアウトウォッシュの加速に利用していた。

 ダクト内のチャネル配分は、カーボンが酸化を始める閾値を下回るように、ブレーキディスクに直接当たる方が決まる。もう一方はブレーキキャリパーへ向かうチャネルとなる。両方とも、後方に面した同じ排気口へ抜けていく。

 これらのチャネルは大きなカーボンファイバー製のドラムに格納される。このドラムはブレーキから出る熱を閉じ込め、金属製のホイールリムやタイヤに過度の熱量が伝わるのを防いでいる。大まかに言うと、リムの温度が10℃上昇すると、タイヤの温度は約1℃上昇する。

フェラーリのブレーキドラム内部。レッドブルメルセデスと違い、ディスクを完全に覆っていない

 このような一連の複雑な要求に対するフェラーリの解決策は、レッドブルメルセデスよりも単純で、ドラムからブレーキディスクを突出させるというものだ。一方、レッドブルメルセデスは、ドラムの内側にフェアリングを施し、ディスク、キャリパー、あるいはそのまま排熱するかの配分を変えられるようにしている。

 今シーズンの各マシンのパフォーマンスの傾向から、フェラーリはリムとタイヤに素早く熱を入れており、1周目のフロントタイヤのパフォーマンスに苦しむことが殆どない。一方、レッドブルメルセデスは、しばしばそれに悩まされている。

 これは今シーズンの予選でフェラーリが強力なパフォーマンスを発揮していることに大きく寄与していると考えられる。しかし短所として、レーススティントでリムの温度が上がり続けてしまい、タイヤのオーバーヒートを引き起こしている。

 直近では、日本でこの傾向が見られた。シャルル・ルクレールは3周に渡りマックス・フェルスタッペンに追従し、2台はコース上の他のマシンより2秒速いラップを刻んでいたが、フェラーリのフロントタイヤがオーバーヒートしてしまうと、フェルスタッペンには簡単に引き離され、終盤にセルジオ・ペレスに追いつかれることとなった。

 これは、イモラのスプリントや、マイアミ、ハンガリーで、フェルスタッペンがフェラーリを攻略できた要因でもある。

左はメルセデスの下部が開放されたシュラウド(覆い)、右は下部も含めたシュラウド

 シーズンの大半において、メルセデスがフロントタイヤを最も上手く冷やしていたと思われ、スティント後半にかけての強力なペースが顕著だった。ただ一方で、予選ラップの序盤でフロントタイヤの温度を上げられないことが、しばしば発生している。

 レッドブルは、フェラーリメルセデスとの間にまたがっているような感じだ。予選ではメルセデスより良いがフェラーリほどではなく、 レーススティントでのタイヤの寿命はフェラーリより長く、メルセデスより短い。レッドブルメルセデスは、シーズンを通して、ブレーキ冷却の妥協点を改善させきた。

 新レギュレーション下において、これらの違いが、序列を決めるのに如何に重要であるかが強調されているのだ。