ザントフォールトでレッドブルが急激にアドバンテージを失った理由は?

出典:

www.formula1.com

 ローダウンフォースのスパであれほど速かったレッドブルが、ザントフォールトでは若干ながらも競争力が不足していたのは何故なのか? マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に、サスペンションセットアップの面から理由を探る。

 レッドブルフェラーリ、そしてメルセデス、これらトップ3の勢力図は、スパから僅か7日後のザントフォールトで大きく変化した。これには、いくつかの技術的な要素が関係している。

 スパではレッドブルのアドバンテージがシーズンを通して最大となっていたが、これに反し、ザントフォールトでの3チームの差は極めて小さかった。マックス・フェルスタッペンは、14番手からスタートしたスパよりも、このオランダのサーキットでポールからスタートした時のほうが、勝つのに苦戦を強いられていた。

 先週話題にした通り、レッドブル RB18 のアドバンテージが最大化されるのは、トラックレイアウトにより、全チームが車高を上げなければならない時である。当然、車高を上げると全てのクルマのダウンフォースが減少するが、レッドブルは減少が少ないのだ。

 また、レッドブルは車高調整が柔軟で、他よりも上げ幅が小さくて済むのかもしれない。だとすると、これは二重に効いてくる。車高を上げることによるダウンフォースの減少が小さく、更に、車高の上げ幅も小さいのだ。

レッドブルのアドバンテージは、他が車高を上げて走行しなければならない時に顕著になる

 これと正反対なのがメルセデスで、スパで求められる車高では多くのダウンフォースを失い、車高の上げ幅もレッドブルより大きかったのだろう。

 フェラーリのマシンは高速でバウンシングする特性を持っており、スパではレッドブルよりも妥協を強いられていたものの、メルセデスほどではなかった。

 これらは、スパでの各マシンが、ダウンフォースをどれだけ効率的に生成しているかどうか、即ち、如何に小さいドラッグで、多くのダウンフォースを得ているかを端的に表している

フェラーリメルセデスは、スパでバウンシングの影響を受けていた

 一方、ザントフォールトで必要な空力は、まったく異なっている。サーキットは比較的平坦で、ストレートも長くない。ここでの空力効率はスパほど重要ではなく、とにかく多くのダウンフォースがあればいいのだ。車高をかなり低くして走行できるレイアウトで、このような空力要求下において、車高の低いメルセデスは本当に良く機能している。

 車高を低くでき、かつ空力効率の重要度が低いサーキットということで、ザントフォールトでのメルセデス W13 は、レッドブルフェラーリに対して最も競争力が高かった。フェラーリがタイヤの温度に問題を抱えていたこともあり、今シーズン初めて、メルセデスがフェルスタッペンの最大の驚異となったのだ。

 レッドブルが車高調整に寛容なのには多くの要素が絡んでおり、シーズン序盤はその洗練されたアンダーボディのデザインが注目されたが、精巧なフロントサスペンションも、重要な要素となっているはずだ。

 フロントとリアのサスペンションは、エイドリアン・ニューウェイが直々に設計したもので、新しいレギュレーション下において、彼がサスペンションを如何に重要視していたかを示している。

メルセデスは、車高が低いときのダウンフォースのおかげで、ザントフォールトでは(レッドブルにとって)より危険な存在だった

 空力レギュレーションの刷新によって、各チームはフロントとリア、両サスペンションのパッケージを再評価することとなり、これを反映するように、レッドブルはフロントにプルロッド(以前はプッシュロッド)を、リアにプッシュロッド(以前はプルロッド)を採用した。そして RB18 のフロントサスペンションの細部は、実に興味深い。

 アッパーアームの前方は非常に高い位置にマウントされ、後方はそれよりかなり低い位置にマウントされている。これは2022年の各マシンに共通で、ブレーキング時の沈み込みを防ぐ目的がある。これによって減速時にリアの車高が上がるのを抑えることができ、このことはグランドエフェクトカーにとって非常に重要なのだ。以前のマシンは大きなレーキがつけられているため、そこまで重要ではなかった。このジオメトリの欠点は、フロントホイールがロックしやすくなることだが、2022年のレギュレーションでは、空力面で得られるものがそれを上回っている。

 サスペンションの外側に静的な車高調整機能を組み込んだのは、レッドブルの美しいディテールであり、プルロッドレイアウトに付きもののアクセスの難しさを回避している。

 過去2年、レッドブルのフロントサスペンションは、内側と外側、両方の取り付け位置が分離している、マルチリンク方式を採用しており、各々がより独立して動作することで、優れた車高制御に寄与していた。

挿入図(左)は昨年のレッドブル RB16B のプッシュロッドサスペンション。現在、アッパーアームの前側がシャシーを貫通しているが、以前はロワアームの前側が貫通していた。アッパーアームは、前側が後ろ側よりも高い位置にマウントされており、沈み込みを抑えるアライメントになっている。ペダルボックスの外側にある車高調節機構(右の挿入図)は、美しいディテールだ。

 優れた車高制御は、F1 マシンの場合、一般車で求められるドライバーの快適さよりも、空力的な理由で望まれる。車体のバウンシングを抑えることができれば、更に車高を低くして走ることができ、アンダーボディのグランドエフェクトによって発生するダウンフォースが大きくなる。また、ドライバーがより縁石を使えるようになり、トラックを短い距離で抜けることができる。

 RB18 が様々なタイプのサーキットで速さを発揮するのは、サスペンションだけによるものではないが、現行のレギュレーション下においては、以前よりもメカニカル面がより空力に影響するようになっている。