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ブレーキは、F1 において今もまだデザインの自由度が認められている、数少ない技術領域のひとつだ。そしてその開発は、留まることを知らない。ここ数年、レッドブルとアストンマーティンが、キャリパーのデザインで一歩先を行っている。この2チームがどのようにして、この領域でパフォーマンスを向上させ続けているのか、マーク・ヒューズが解説する。
システム上、ERS-K のリバーストルクへの依存度が高いリアでは、相対的にブレーキディスクが小さくなるため、F1 チームによるブレーキの設計・開発は、殆どがフロントブレーキに対して行われる。油圧制御のピストンを持つキャリパーが、カーボン製のブレーキディスクにブレーキパッドを強く押しつける、この文字通りのブレーキングは、殆どがフロントで行われているのだ。
ドライバーがブレーキを踏み込むと、F1 マシンの運動エネルギー(走行することによるエネルギー)は熱エネルギーに変換され、膨大な熱が生まれる。この時のブレーキディスクは、1,000℃を超える温度にまで到達する。
ブレーキキャリパーは、制動力による歪みに対して十分な強度が求められる反面、軽くなくてはならない。ホイールとブレーキはサスペンションで支えられておらず、(バネ下重量へ)加算される重量はすべて、マシンのグリップや車高制御に大きな悪影響を与えてしまうからだ。
軽ければ軽いほど良く、シャシーやボディーワークのようなバネ上の重量よりも重要なのである。
キャリパーに十分な強度を保ちつつ重量を減らすために、驚くほど複雑な方法が考案されてきた。また、熱を逃がすための冷却経路でも、重量を削減している。
ディスクにある冷却口は、ブレーキの未使用時、素早く熱を逃がすのに役立っているが、使用時にディスクが発熱しやすいようにもしている。重量が軽ければ、それだけ熱も伝わりやすくなるからだ。キャリパーが担うことができる放熱量は、多ければ多いほど良い。
アストンマーティンは昨年、うねのような機械加工を施した、手の込んだキャリパーを導入し、レッドブルがこれに追従している。今年のアストンは、その複雑なキャリパーはそのままに、上図に示す通り、位置をディスクの下部に移し、低重心化をおこなっている。
レッドブルは昨年からこの位置にマウントしていたが、今年は更に複雑なキャリパーを導入してきた。下図に示す通り、その細部はアストンと同レベルだ。
ライバル達は既に、彼らの2023年型マシンを開発していくにあたって、レッドブルとアストンマーティンの長所をどのように模倣するか、必死になって観察している。この過程において、キャリパーのデザインは、小さいながらも重要な要素になりそうだ。