ライバルと一線を画す、レッドブルRB18のデザイン

出典:

www.formula1.com

 レッドブル RB18 は、史上最も優れたF1マシンの1台として、その名を残しつつある。マックス・フェルスタッペンに2度目のワールドタイトルを、チームには9年ぶり5度目のコンストラクターズチャンピオンをもたらし、ここまでの20戦で16勝(フェルスタッペン14勝、ペレス2勝)を挙げている。

 これは、新しい空力レギュレーションによる一からのマシン開発において、殆どのチームが苦戦するなかで、最高傑作を造り上げたことを意味する。

 マシン開発を担う、最高技術責任者のエイドリアン・ニューウェイ率いるレッドブルのテクニカルグループは、テクニカルディレクターのピエール・ワシェ、空力責任者のエンリコ・バルボ、チーフエンジニアリングオフィサーのロブ・マーシャル、チーフデザイナーのクレイグ・スキナー、パフォーマンスエンジニアリング責任者のベン・ウォーターハウス、(車体)チーフエンジニアのポール・モナハンらによって構成されている。

 ニューウェイは、キャリアの初期段階でグランドエフェクトカーを経験しており、アンダーボディで強力な空力効果を得るマシンコンセプトで直面する問題の一部に気がついていた。ニューウェイがこの経験を生かして手掛けたのは実質的にサスペンションに限られたが、このことは、マシンのオールラウンドな強さにとって重要な意味を持つ。

 マシンは、パワフルで、信頼性に優れ、コンパクトな Honda RA621 を搭載している。これは、2021年に導入したパワーユニットの改良型である。レッドブルは、これを中心として、新レギュレーションの中核をなすヴェンチュリートンネルの吸気ベーンの裏側にあたる部分が深く切れ込んでいる、独特の洗練されたサイドポッドを持つマシンを生み出した。

 ではここから、ライバルと一線を画す鍵となったデザイン要素をひとつずつ確認していこう。

今シーズンのフェルスタッペンと RB18 は圧倒的な組み合わせで、ここまでの20戦で14勝を挙げている
フロア

 アンダーフロアは、現在のレギュレーションにおいては、間違いなくパフォーマンスの鍵となるもので、中央の平坦なキールの両側にあるトンネルによって、ダウンフォースを生成する。

 トンネルを抜ける気流の速度と、アンダーフロアと車体上面との圧力差によって、マシンが効果的に地面に吸い付けられ、大きなダウンフォースが生まれる。

 しかし、レッドブルのトンネル処理は、他のどのマシンとも大きく異なっている。他は周囲にトンネルが走る中央のキールが涙滴型になっているが、レッドブルキールは画一的なものとは異なっている。トンネルの天井もより高く、更にアーチ状になっているようだ。

 キールの形状が異なることと、トンネルの高さにバリエーションを持たせたことから、気流が安定するようにトンネルの容積を慎重に調整したことが窺え、他に見られたポーパシング現象が深刻になるようなポイントが無かった。

フェラーリのアンダーフロア(左)とレッドブル(右)との比較。RB18 のフロア中央のキールは、F1-75 のような画一的な涙滴型ではないことが分かる。ここから、キール両側にあるトンネルの高さを、気流の総量に一貫性を持たせるよう、慎重に調整したことが窺える。このことで理論上はフロアで発生するダウンフォースの最大値が低くなるが、ストールしにくくなり、異なる車高への許容度が増す

 現行のレギュレーション下での鍵が、車高が低くなる高速コーナーでの最大ダウンフォース量ではなく、車高が上がる低速コーナーで如何にダウンフォースを維持できるかであることは、既に明らかになっている。

 レッドブルのフロアは、高速コーナーでの最大ダウンフォースではフェラーリメルセデスのレベルに到達していないものの、他よりも車高の変化に対して寛容なのだ。

 トンネルの吸気ベーンのエッジも画一的な形状をしておらず、トンネルの形状に合わせて作り込まれているようだ。レッドブルは、各サーキットに合わせて、様々な吸気ベーンや、フロアエッジのアレンジを用意した。

 これらによって、マシンの空力特性に幅を持たせ、フロントとリアの車軸に対するダウンフォースの重心を変化させているのだ。

左:ポールリカールで、レッドブルは外側2箇所のトンネルの吸気ベーンの間隔を広げた。チームは通常、各サーキットに合わせてベーンの形状を微調整するが、これは大きな改良だった。右:シルバーストンでは、リアタイヤの前にある舌のようなパーツが床下に取り付けられた。これはフェラーリが初めて採用したものによく似ており、フロアのこの部分で発生する “タイヤスクワート” による過剰な圧力を軽減するとされている。
サスペンション

 レッドブルマクラーレンと同様に、新しいレギュレーションに合わせ、フロントにプッシュロッド、リアにプルロッドという従来の構成を、正反対に変更した。フロントにプルロッドを採用することで、ロックアップの傾向は強くなるものの、トンネルの吸気口へのルートが確保されるし、リアをプッシュロッドにすることで、敏感で剛性が上がり、より軽量な構造となる。

 以前は、リアのプルロッドのロッカーを高く配置することで、ブレーキダクトの形状に大きな開発領域が生まれていたが、2022年はこれらが標準パーツとなってしまったため、もはや注目されていない。

 リアサスペンションには、様々な車高を許容するため、大きな可動領域が求められる。他のどのマシンよりも静止状態での車高は高いにもかかわらず、高速域ではドラッグを軽減するため低く沈み込む。これは、マシンが常に直線スピードのアドバンテージを持っていたことの鍵となっていた。

 マシンがこのように沈み込むためには、柔らかいサスペンションが求められるが、他のマシンがこのようなセッティングをおこなうと、バウンシングを誘発してしまう。レッドブルのフロアが気流のストールに耐性があるため、より柔らかいサスペンションを機能させられるのだろう。

レッドブルの2022年のフロントサスペンションの詳細図。左の挿入図は、2021年のプッシュロッド。現在、アッパーアームの前側がシャシーを貫通しているが、以前はロワアームの前側が貫通していた。アッパーアームは、リアのロワアーム(図では見えない)に対して更に高くマウントされ、沈み込みを抑えるアライメントになっている。ペダルボックスの外側にある車高調節機構(右の拡大図)は、見事なディテールだ。

 他のマシン、特にメルセデスでは、サスペンションを十分に固くし、バウンシングを誘発する周波数となる車高と車速の組み合わせから外しておく必要がある。そうしないと、タイヤのサイドウォール上でもバウンシングが始まってしまう。レッドブルは見たところ、そういった懸念がまったくない。

 フロントでは、ニューウェイは今回もマルチリンクを選択、アッパーアームのフロントを高く、リアを低くマウントし、ブレーキングでのダイブを抑制した。これによりリアの車高の上昇が抑えられ、必然的にダウンフォースのロスも軽減する。

 見事なディテールとして、サスペンションの露出した部分に(通常は中央のロッカーにある)車高のアジャスターを設け、作業を容易にしている。

 マルチリンク ― サスペンションの取り付け位置を変えられるよう、接続点を別々にすること ― では重量が嵩んでしまうが、それぞれが独立して機能することにより、より精緻な車高制御が可能になる。これは空力的に安定した基盤となり、縁石を使いやすくなるという利点もある。

レッドブルは、シルバーストンで新型のエンジンカバーを導入した。上下の出っ張りの間で気流の通り道を形成している。これにより、通常は相反する要素である、冷却容量の向上と、マシンのリアでの気流の改善を両立した。
開発

 RB18 には広範囲にわたる空力開発がおこなわれてきたが、最も重要な開発は、重量の削減ではないだろうか。マシンは開幕時、最低重量を大幅に上回っていた。

 強力なフロアから生まれる空力負荷により、以前よりも剛性が必要で重くならざるをえず、新しい18インチタイヤと大きなブレーキは、15インチ時代よりもかなり重い。

 重量超過の多くはマシンのフロント側にあり、序盤はフェルスタッペンの好みよりもアンダーステアで、フロントブレーキのロックを引き起こしていた。

 重量の削減(イモラでの新型フロア、再設計されたブレーキ、時間的な制約で中身が詰まった状態で製造されたコンポーネントの空洞化)によって重心が後ろへ移動した。

 これは空力担当者にとってはビッグニュースで、合わせて空力バランスも後ろに移し、当初の回頭性を損なうことなく、コーナーでのリアの安定性を高めることができた。