新車分析:W14 で独自のサイドポッドを維持したメルセデス

出典:

www.formula1.com

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 昨年はタフな一年となったメルセデスは、新車の W14 で反撃を狙うが、ローンチしたシルバーアローは、先代のユニークなマシンコンセプトを踏襲したものだった。F1 の技術エキスパートであるマーク・ヒューズが、この理由を分析する...

 メルセデスは新型の W14 で、問題だらけだった昨年の W13 の良いところ、即ち高速域でのダウンフォースを残しつつ、ポテンシャルを制限し、ドライビングを困難にしていたバウンシングとポーパシングを解消できたと期待している。

 細く縦長のラジエーターへの給気口、露出面積の大きいフロア、上部の飛び出した『シスバー』(サイドインパクトバー)により、気流を直接サイドポッドの上へ向けて落とすといった、先代のマシンが持っていた極めて独特な特徴の多くが、W14 には残されている。

 しかし、サイドポッド下部の輪郭は平坦となり、前部は大きく、後部は後方へ向け伸延されている。サイドポッドは、エンジンカバーとの境界が曖昧なものではなくなり、冷却のため高い位置に、ラジエーターを抜けた気流を後方へ噴出するキャノン形を形成し、エギゾーストの両側に配置している。

 このことで、サイドポッド上面の大きなルーバーが無くなった(ただし、外気温が高いレースでは、ここにルーバーを設置するかもしれない)。

W14(上)と W13(下)との比較。『ゼロ』サイドポッドは少し大きくなり、後方へ向かって拡張され、前部の輪郭は縦方向が平らになった。ラジエーターを抜けた冷却系気流の経路はまったく異なっており、『キャノン』形のボディワークをサイドポッドとエンジンカバーの間に配置し、後方中央のエギゾーストの両側から排気する。これにより、サイドポッド上面のルーバーが姿を消している。

 テクニカル・ディレクターのマイク・エリオットは、こう認めている。「我々は昨年、大きな過ちを犯したのではないか、何かを根本的に変える必要があるのではないかと、自問自答してきた。だが、全てを捨てて最初からやり直したら、今いる場所から後退してしまうことも分かっていた」

「手元にあるマシンに手を加えた方が良かったんだ。昨年のマシンには多くの問題があったが、良い兆候、上手く機能した部分も沢山あった。最初からやり直すことで、これらを失ってしまうことには慎重になる必要があった」

 この考え方は、チーム代表のトト・ウォルフも認めている。「何度も分析を繰り返してきたが、目の前にあるマシンは、やはり他のどのマシンとも異なるサイドポッドを持っている。この部分でパフォーマンスが劣っている訳ではないと信じている」

「我々は全てに目を向けている。このサイドポッドはあくまで初期型で、数レース後には少し変えることになるかもしれない。マイクが言った通り、コンセプトを変えたとしても、結局は二歩進むために三歩下がることになるんだ。我々がまだ大胆さを持ち、科学的に行動できていることを嬉しく思っている」

W14(左)と W13(右)のサイドポッドの前部比較。以前と同様、張り出した上段のサイドインパクトビームが採用されている。ここで気流を下の露出したフロア面へ向かわせ、マシンのリアへ抜けていくこの気流を更に加速し、ダウンフォースを増している。

 フェラーリを除く殆どのチームが追従した、定評のあるレッドブルのボディワーク構造に切り替える必要はなかったと言うことだ。

 その代わりにメルセデスは、グランド・エフェクトを導入したレギュレーションに対応した彼らの最初のマシンの空力を進化させることを選択した。その一つが、アンダーフロアのデザインであることは間違いない。

 しかし、メカニカル面でも大きな変更が加えられており、チームは昨年のマシンで追い込まれた状況を打開することを期待している。

 メカニカル面での最も大きな変更は、プルロッドのままではあるものの、完全に新しいリアサスペンションだが、シルバーストンのシェイクダウンに向けて空輸される前のローンチの段階では、本来の姿は確認できない。狙いは、バウンシングの大きな要因となっていた、空力プラットフォームを安定させるために足回りを固めなくても良いように、サスペンションの可動領域に幅を持たせることだ。

 昨年の空力的な問題を打破するのはメカニカル面であると言うメルセデスの分析が正しければ、この特異な空力コンセプトの真価を目にすることが出来るだろう。

W14 のフロントビュー。フロントサスペンションはプッシュロッドのままだが、ジオメトリを調整し、ここを抜ける気流の邪魔にならないようにしている。