終盤のアップグレードが決定打となるか? ― ランキング4位をめぐるアルピーヌ対マクラーレンの争い

出典:

www.formula1.com

 アルピーヌはマクラーレンコンストラクターズ選手権で4位を争ってはいるものの、“ビッグ3” の後ろに位置しているのは明らかで、A522 は、2022年の決勝で最も安定して競争力を発揮してきたマシンである。

 エンストンのチームは、ここ最近の彼らとは対照的に、また今年のマクラーレンとも対照的に、様々なタイプのトラックにおいて同じようなパフォーマンスを発揮できており、開発も効果的におこなってきた。

 今週末のシンガポールへ向け、大きな空力アップグレードを投入すると見込まれている。これは、今年のコストキャップのもと、費用対効果を重視して勧めてきた開発プロセスの一環である。

「残りのシーズンに向けて、マシンへのアップデートを継続していく」と、テクニカル・ディレクターのマット・ハーマンは語る。「我々には予算も残っているし、アイデアもある…」

 最も大きいチームより約100人少ない規模であり、マシンの開発予算にはいくらかの余裕があるが、マシンのボディワークを多くのモジュールで構成する設計で、例えばフロアやサイドポッドは、コンポーネントを丸ごとではなく、パッチワークのようなアップデートをおこなってきた。

アルピーヌは A522 の開発を継続しており、シンガポールでもアップデートを投入する

 今年、このようなモジュール化の方針を採ったのはアルピーヌだけではないが、彼らは他よりも徹底していると言えるだろう。

 例として、バクーで投入された、新しいサイドポッド前方のラジエーターの吸気口を挙げる。

 ラジエーターの吸気口は、薄くなったが、前方に張り出して深くなり、これによってサイドポッドは内側へ向け角度がつけられている。チームの狙いは、ダウンフォースを失うことなくドラッグを軽減し、フロントタイヤからの気流の流れをより良く制御することだ。

 サイドポッド前方の形状は大きく異るように見えるが、これは既存のポッドに新しい部分を追加したに過ぎない。

 同じような改良は、シーズンを通じて、フロアの前方の露出した部分にも適用されており、異なるカーボンの形状が確認されているが、これらも新しい部分を既存のフロアと一体化させたものである。

新型の薄く、深いラジエーター吸気口(左)と、旧型の幅が広く薄い吸気口(右)

 すべてのボディワークを取り除いたマシンは非常にコンパクトだ。ラジエーターコアや配管には最新テクノロジーが採用されているし、適所にカーボン構造を採用することで強度の確保と軽量化がおこなわれている。

 ここが、これまで促進されてきたコスト重視のモジュール化アプローチの核心だ。

「このレギュレーションが始まる数年前から、マシンに新しいテクノロジーを投入するため、我々は懸命に働いてきた」と、ハーマンは説明する。「このことが我々に強い基盤をもたらしている。得られた高効率のテクノロジーによって、空力部門とメカニカルアイテムに集中できる」

「すべては空力のためなんだ。我々は、マシンの細かい要素について、空力を支援、あるいは促進する値を把握しようとしている。空力担当者に最大限の資産を投入し、力を発揮させたいんだ」

「邪魔するものは何もない。我々の想像力にかかっている。これは重要なことで、我々を進歩させてきた大きな要因だ」

アルピーヌはシルバーストンで、フェラーリに似た、サイドポッド上面とエンジンカバーとの間の溝を採用(左)、バクーではラジエーター吸気口をアレンジ(右)し、ダウンフォースを失うことなくドラッグを軽減させた

 ラジエーターの吸気口の改良は、ボディワークの内側にある構成部品の再配置が不要だったため、比較的容易に実現することができた。

 同様に、シルバーストンでのアップグレートでは、サイドポッドの前方が更に改良された。ラジエーターの吸気口の前方でフロアが更に露出し、リアへ向けてボディワークを削り取って、サイドポッドの外縁とエンジンカバとの間にフェラーリのような谷間を形成している。

 このことも、ラジエーターの排気口をエギゾーストの下から上へ移動させる自由を空力担当者に与えることができたため、比較的容易に実現できた。

 開発パーツの投入において、全チームが非常に厳しい費用対効果の分析をおこなっている。

 シーズン序盤、最高技術責任者であるパット・フライは、アルピーヌがどのようにターゲットを絞るかの方向性を説明している。「フロントウィングは最も高価な空力パーツだ。ウィングを丸ごと交換すると、10万ユーロかかる」

「だから意味のある改造なのか、よく考えるんだ。もしフロアの一部の形状を新しくする方が得なら、フロアに手を付ける」

2022年も残り6戦、アルピーヌはマクラーレンとの P4 争いで、18ポイントリードしている

「向上するラップタイムの予測は、対コストでおこなう。フロアからは、ウィングよりも10倍以上のものが得られるし、2kg の軽量化か、4ポイントのダウンフォースかのどちらかを選ぶなら、軽量化を選ぶ。これがラップタイムを保証することになるんだ」

 この開発アプローチでは、優れたシミュレーションが肝だということだ。

「この点で満足することはない」と、ハーマンは語る。「相関関係は一瞬で変わってしまうからね。それでも現時点での相関関係の把握には満足できている。シーズンを通して開発を続けられているし、2023年のマシン開発に増々必要になってくる風洞を使う必要も出てないからね」

 エンストンの技術チームは、コンストラクターズ選手権で4位争いをするなかで、効率性を重視することが決定的な違いとなると期待している。

 マクラーレンシンガポールにアップグレードを持ち込むと見られており、チャンピオンシップでは興味深いサブストーリーが展開されている。