出典:
レッドブルは2023年のフロアレギュレーションにどのように対応し、昨年のマシンと比べて大きくペースを上げたのだろうか。マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストを交えて確認する。
フィールド上でのレッドブルのアドバンテージは、2022年終了時点よりも、今回の開幕戦、バーレーングランプリの方が大きくなっていた。
昨年のトップ3チームがそれぞれのデザインコンセプトを変更しないまま、リアホイール前方のフロア高を上げる新レギュレーションに対応したにもかかわらず、どのチームも更にパフォーマンスを上げてきたことが、下表から読み取れる。
Red Bull | Ferrari | Mercedes | |
2022 | 1m 30.681s | 1m 30.558s | 1m 31.048s |
2023 | 1m 29.708s | 1m 30.000s | 1m 30.340s |
Gain | 0.973s | 0.558s | 0.708s |
この表からまず分かるのは、レッドブルが最も大きなゲインを得たことだ。昨年のレッドブルのパフォーマンスは、空力効率の良さから来ていた。つまり、フェラーリやメルセデスよりもドラッグを低く抑えつつ、広い速度域で良好なダウンフォースを得ていたのだ。
このことから、レッドブルのアンダーフロアはこれらのライバルよりも効率的であり、同じダウンフォースであっても、ドラッグを生むウィングの面積を小さくすることができていたと推測される。
2023年、レッドブルのチャレンジは、レギュレーション変更に対応しながら、このフロアでのアドバンテージを保つことだった。
リアタイヤ前方のフロアが10mm、ディフューザーが15mm引き上げられたのは、ポーパシングの発生を鈍化させるためだ。フロアエッジやアンダーフロアトンネルのスロートを路面に近づけるほど、アンダーフロア全体を路面に引き寄せる気流が速くなる。
こうして気圧を調整することで、更にダウンフォースを発生させることができる。許容される最小高を引き上げると、路面に引き寄せる効果は小さくなる。このレギュレーション変更によるロスを取り戻す過程で、レッドブルはアンダーフロアを抜ける気流を加速する別の手段を探し求めた。
フロアエッジには単一のウィング形状が許可されているが、昨年のレッドブルはこれを巧みに解釈し、リアタイヤのすぐ前方のフロアの裏側にこのウィングを配置した。その形状から『ブレードウィング』と呼ばれ、裏に配置することで、フロアエッジの表面にはウィングを配置できなくなる。
フロア高が上がると、このブレードウィングの効果も以前よりは減少する。気流を加速する新しい手段として、このミニウィングがフロア上面、レギュレーションで許されている渦流を発生する単一の切り込のすぐ後方に移された。
このミニウィング自体で生成できるダウンフォース量は極めて小さいが、更に重要な役割は、このウィング裏面の低圧によって、すぐ隣の渦流を強くすることだ。このことで、フロア前方から来る気流を強く引き寄せ、流速が上がる。
このミニウィングの働きを可能な限り高めるため、その後ろのフロアは切り取られ、ウィング裏面を抜ける気流のための空間を確保している。フロアはダウンフォースを生成する面積をいくらか失うものの、切り取った部分によってミニウィングがより機能し、渦流の強さが増し、フロア前方からの気流が速くなるのだ。
レッドブルは多くのエリアを開発してパフォーマンスを伸ばしてきたようだが、レギュレーション変更に対応したこのフロアエッジは、その伸びの重要な要素と考えられる。
バーレーンでの公式の車体変更文書にて、レッドブルはこう説明している。「レギュレーション変更があり、昨年のジオメトリを変更することで、外側のエッジの最低高を上げる必要があった。これはチームが望んだ方向でも、マシンのパフォーマンスに繋がるものでもなく、被ったロスを最小限にするためのジオメトリである」
レギュレーションによって失ったものより多くを、創意工夫によって取り返したのだ。