フェラーリとレッドブルがポール・リカールで施したフロア吸気口の見事なアレンジ

出典:

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 レッドブルフェラーリによる開発競争が激化するなか、ポール・リカールでは、両チームともフロアの吸気口に大きな変更を加えてきた。

 両方のマシンで手を加えられたのは、アンダーフロアのトンネルへ向かう吸気口のフェンスだ。各チームには3枚のフェンスが許可されており、その外側の『バージボード』が、実質的に4枚目のフェンスとして機能している。基本的な働きは、マシンのアンダーボディでのダウンフォースを生成するヴェンチュリ・トンネルに入ってゆく気流の加速で、ここへ導く気流が速くなれば、生まれるダウンフォースも大きくなる。

 しかしダウンフォースには、この吸引効果によって生まれる(トンネルと路面とのギャップが最小になる『チョーク・ポイント(首絞め点)』でピークに達する)ものと、フロアの上面と下面に沿う気流の相互作用によって、フロア前方のまさにその場所で生まれるものがある。空力担当者は、フロントとリアのバランスを変化させるため、双方の妥協点を調整しているのだ。

 空力バランスとは、空力的な重量配分と考えられる。ダウンフォースを各軸上にどのような形で働かせるかが重要になのだ。低速サーキットにおいては、高速コーナーでの安定性が求められるトラックよりも、優れた回頭性を得るために前寄りの空力配分が好まれる。

レッドブルフェラーリは、ポール・リカールのウィングレベルで難しい厄介な選択を迫られた

 ポール・リカールの高速で長いコーナーを抜けるには、圧力の中心はリア寄りにあるのが望ましいと考えられる。

 圧力の中心をリアへ寄せるのに最も単純な方法は、大きなリアウィングで走ることなのだが、直線スピードを失ってしまう。レッドブルが直線スピードを重視しているのは明白であり、彼らはリカールにローダウンフォース仕様のウィングを持ち込んでいた。

 これを埋め合わせるために、アンダーボディの働きで圧力の中心をリアに寄せることが更に重要になってくる。彼らは力強い直線スピードと、圧力の中心の後方への移動の両方を狙っており、この相反する目的のためにフェンスを再構築するという解決策を講じたのだ。

レッドブル

 レッドブルは、トンネル入り口のフェンスのアレンジを変えることで、各トラックに応じて空力配分を変化させているようだ。今年は既に多くの異なったアレンジで走行しており、RB18 の非常に洗練された点だと考えられる。

ポール・リカールでのレッドブルのフロア吸気部のアレンジ。今年になってチームは既に多くの異なるアレンジを用いている。リカールでのレッドブルは、一番外側のベーンを離し、空力バランスを後方に移すことを狙った

 では、フェンスのアレンジは、どのように空力バランスに影響を与えているのだろうか? リカールで FIA に提出された、新しいフェンスに関するレッドブルの説明に手掛かりがある。

  • 目的:性能 ― 局所での負荷
  • 変更点:フロアエッジのフェンスの再構成
  • 詳細:フェンスのレイアウト変更により、気流の安定性を確保しつつ負荷を向上させ、その場所での圧力配分を再構成する

 『局所での負荷』とは、後方のトンネルで生まれるダウンフォースに対し、フロア前方の表面で発生するダウンフォースを指している。ちょうどウィングがそうであるように、フロアの上面と下面にできた圧力差によって、ボディワークの正にこの場所でダウンフォースが生成される。一番外側のフェンスがこの役割の殆どを担っており、最も内側のチャネルを抜ける気流は、そのままヴェンチュリ・トンネルへと向かう。

 フランスGPより前のレッドブルは、外側の2枚のフェンスを限界まで寄せて配置し、後方で合流させ、これらの相互作用によって、外側へ掃き出されトンネルから離れる気流を加速させていたと思われる。このようにして、フロアのこの場所での上面と下面の圧力差を生み出していた。この場所は車体の前寄りであり、従って、空力バランスも前寄りになっていたのだろう。このように利用された気流はトンネルに戻ることはないので、その点においても、バランスは前寄りになる。

 フランスでは、これらの外側2枚のフェンスは離れて配置された。これはレッドブルが、空力バランスをリアに寄せようと考え、トンネルへ導く気流を増やすと共に、フロアのこの場所での負荷を減らそうとしたことを示している。これは、彼らが直線スピードを重要視して用いる小さなリアウィングの埋め合わせとしても矛盾しない。

 圧力の中心をリアに寄せることは、フロントタイヤのサーマルデグを最小限にすることにも繋がる。リカールの場合、これは全員にとって大きな問題であり、焦げつくような路面温度だったので尚更だ。

リカールでのレッドブルは、外側2枚のフェンスの間隔を広げた。黄色の破線は以前のフェンスの位置で、非常に『バージボード』と接近している(挿入図でも確認できる)。2枚のうち内側の方を更に内側へ移動させ、バージボードから離すことで、小さいリアウィングを使いながらも空力バランスをリアに寄せる一助としている
フェラーリ

 フェラーリがフロアに施した変更は、レッドブル程サーキットに特化したものではなく、通常の開発計画に基づくものだ。

 フェラーリは、内側のトンネルの吸気口は高くして、外側は既存と同じ高さにするため段差のあるボディワークを使用した。また、外側の『バージボード』を前方に引き伸ばしている。

 吸気口の高さを高くすることでトンネルにより多くの気流を導き、レッドブルと同様に空力バランスを後方に寄せるだけでなく、ダウンフォースの総量も増加しているかもしれない。フェラーリの意図するところは、FIA におこなったマシンの改良箇所の説明から確認することができる。

「この新しいフロアコンポーネントは、通常の開発サイクルの一環で、マシンの外装全体を通して全体での空力パフォーマンス向上を目的としており、ポール・リカールサーキットのレイアウトに特化したものではない」

内側の吸気口(シェルのマークの隣、カーボンブラックのところ)の高さを上げ、外側の吸気口はボディワークに段差をつけている