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2014年のハイブリッド・パワーユニットの出現により、レッドブルが支配する F1 は終わりを告げ、メルセデスの時代が到来した。レッドブルが再び F1 のトップチームに返り咲くには長い時間を要したが、あの時代は、マックス・フェルスタッペンが世界選手権三連覇へ向け突き進む現在と合致している...
以前、このチームが F1 を支配し、セバスチャン・ベッテルが4連覇を記録した時代は、2009年、RB5 のランドマーク的なデザインに基づいている。その年の栄冠はブラウンGPにさらわれたが、このデザインは以降4年間のテンプレートとなった。また、レッドブルが、その短い歴史のなかで初めてトップチームとしての地位を確立したのも、この時代だ。
第1期のレッドブル時代を成したタイトル獲得マシンは、次々と調整されるレギュレーションに対処しながら戦ったが、どれも技術面での決定的なアドバンテージを有していた。では、それらを確認していこう。
2009 - RB5
17 races / 6 wins / 16 podiums / 5 poles
2009年に刷新された新レギュレーションの狙いは、(他にもあるが)ディフューザーの角度をより小さく制限し、ダウンフォースを制限することだった。この大きなレギュレーション変更は、レッドブルのデザイン部門を率いるエイドリアン・ニューウェイにとって、大規模チームであるフェラーリやマクラーレンが蓄積していた大きなアドバンテージを一掃する、抜本的な再設計の機会となった。
ニューウェイは、ここ数年は F1 から姿を消していた機構を再び取り入れた ― プルロッド式のリアサスペンションである。これにより、サスペンションのロッカーを上から下に移し、制限のかかったディフューザーを機能させるための大きな空間を確保した。ギアボックスの位置も低くなり、上段のウィッシュボーンは露出している。これは、ビームウィングと連携した空力的形状が目的と考えられる。
ボディワークのコークボトル部は、魚の尾ひれのように上部が広げられ、ディフューザーの上を抜ける気流を加速することで気圧を調整し、機能を向上させている。ノーズの先端は高くなり、その裏側にアンダーフロアに繋がる大きな空間が確保された。
このノーズの断面は U字型で、角の部分の要求寸法を満たしつつ、マシンの前方投影面積を削減している。これらの組み合わせは、以後数年の F1 マシンで一般化したが、2009年は RB5 だけに見られた外観だ。
しかしながら、レッドブルはブラウンのトリック的なダブルディフューザーを見落としていた。これは、アンダーボディのスロットギャップによって、従来のディフューザーの上に、ディフューザーとして機能する新たな領域を作り出すものだ。レッドブルはその後、シルバーストンで改良を加えたものを取り入れた。同時に後輪の車軸を後退(ただし前車軸も同じく後退させ、ホイールベースは維持)させ、ディフューザーの面積も拡大している。
2010 – RB6
19 races / 9 wins / 20 podiums / 15 poles / 2 world titles
2010年のマシン開発の狙いは、ツインディフューザーの面積を最大化することであり、新しいギアボックスのケースを更に長くして、ディフューザーのための面積を広げている。
レッドブルは、ビームウィングによる気流の引き抜きと共に、下段ウィッシュボーンの前足に極端な角度をつけ(このことで、下からスロットを覗いた時、一切のボディワークが見えなくなり、合法)、上段ディフューザーの吸気口を拡大した。
モノコックも V字形の傾向を強め、アンダーボティへの気流を増加させている。ステップアップ機構によって、あり得ないほどギアボックスを持ち上げ、上段のディフューザーへ更に気流を送り込んだ。
これらは全て、エギゾースト・ブロウン(排気吹き付け)ディフューザー(過去の F1 での利用は1983年まで)のアドバンテージを拡大するためのものだった。ニューウェイはこの方法で、RB6 の優位性を高めたのだ。レギュレーションに準拠するため、下から見えないような配置のまま、上段ディフューザーの両側に排気をおこなった。
シーズン終盤、ルノー・スポールからより複雑なソフトウェアが提供され、スロットルを閉じている時でも排気ガスが放出されるようになった。この排気によって、低速時の車高が高い状態にあっても、豊富なダウンフォースを得られるようになった。これにより、レッドブルはハイレーキ・アングルの空力マシンを開発することが可能になったのだ。
フロアそのものがディフューザーの効果をもたらすだけでなく、フロントウィングのグランド・エフェクトも、より高効率になった。これは、シーズン序盤のマレーシアで初めてマシンに搭載された FRICS(フロント・リア・インターコネクテッド・サスペンション)によるものだ。
2011 – RB7
19 races / 12 wins / 27 podiums / 18 poles / 2 world titles
この年はピレリタイヤ(とドラッグ・リダクション・システム)の初年度で、ダブルディフューザーが禁止された。このため、一つになったディフューザーへの排気の吹き付けが、更に重要になった。
RB7 においては、排気口は低く、リアホイールの前に配置された。これにより、タイヤで乱された気流に力を与えてディフューザーに向かわせ、大きなダウンフォースを得ることで、ダブルディフューザー禁止によるロスを埋め合わせたのだ。
この上げ幅は、スロットルを閉じても継続する吹き付けによって最大化する。スロットルは常に開かれており、オフスロットル時も、それに関係なく排気が送り出される。これは電子制御によってスパークプラグをカットすることで実現していた。
レッドブルのエンジンパートナー、ルノー・スポールは、更に複雑なソフトウェアによって、遅延して広がるホットブローイングを実現、これはオフスロットル時にエギゾーストに噴出した燃料に着火し、排気流の速度を上げるものだ。しかしレッドブルは、リアタイヤの限界によって、シーズン終盤までこのホットブローイングを使うことができなかった。
RB7 は、運動エネルギー回生システムを搭載した初めてのマシン(ただし、パッケージ上の問題でバッテリーは許可されていた大きさの60%だった)で、シーズンを通してポールを取り零したのは僅か1回、レースでは12勝を挙げた。以前は苦手としていたロードラッグのスパとモンツァでも優勝している。
このマシンのダウンフォースは余りに大き過ぎたため、高速で長く旋回するコーナーでは、ピレリタイヤの手に負えないことがあった。チームは何度か、単にスティントの長さを確保するために、ダウンフォースの削減を強いられている。
2012 – RB8
20 races / 7 wins / 14 podiums / 8 poles / 2 world titles
このシーズンは、レギュレーションによって排気の吹き付けが大きく制限され、(他のどのチームよりも失うものが大きかった)レッドブルは、困難に直面することとなった。また、フロントウィングの剛性試験も厳しくなっている。その上、エンジンのソフトウェアによるトリックも、極端なものは違法となった。
レギュレーションは、排気口の位置を以前に比べかなり前方に規定し、事実上、吹き付けによる効果は期待できなくなった。これにより、コアンダ効果を持つ排気を、サイドポッドの傾斜の下部に出すようになった。
レッドブルの処理は他よりも洗練されており、レターボックス形のチャネルによってサイドポッド下部から来る気流をディフューザー前方の空間へと導き、コアンダ効果を持つ排気をその上に流すというものだった。また、ドライブシャフト・ビーム・リアウィングの周辺に三枚翼を設置した。
これらによって、RB8 は、2011年のリアグリップをある程度取り戻すことができた。マシンを操るのに直感的なカウンターが不要になり、吹き付け排気の特性を最大限に引き出す技を身に着けていたセバスチャン・ベッテルに対して、マーク・ウェバーが競争力を持つようになった。
バルセロナからはトンネルの吸気口が改良され、車高が最も低く、ディフューザーの失速が始まるところで、代わりにトンネルの吸気口を路面に吸い寄せるようにした。シンガポールからはダブル DRS を搭載、これは DRS を使うと、リアウィングのエンドプレート内側に通気口が現れるというものだ。
マシンはこの吸気部の処理によってあらゆる車高で素晴らしい性能を発揮し、DRS の効果も更に大きくなった。チームの方向性はハイレーキ路線に戻り、インドでは、この年のレギュレーションによる制限にもかかわらず、2011年とほぼ同等の速さを示した。
2013 – RB9
19 races / 13 wins / 24 podiums / 11 poles / 2 world titles
このシーズンの前半戦、RB9 は 2013年の繊細なピレリタイヤを酷使しすぎて、ほんの数回しか優勝できなかった。しかし、シルバーストンでのタイヤの破裂を受け、ピレリが 2012年よりも頑丈なタイヤを供給するようになると、このマシンは手がつけられなくなった。
このマシンの排気口があるサイドポッドの傾斜が更に鋭くなり、その下の吸気トンネルも残されている。ルノー・スポールは、ステアリングの舵角に応じてバンクごとにシリンダーをカットするエンジンマップを用意した。
セバスチャン・ベッテルは、3戦を残したインドでタイトルを確定させ、チームに無線でこう話している。「この日々を忘れないでおこう。永遠に終わらないことなどないのだから」。レッドブルのドライバーが再びタイトルを獲得するのは、ここから8年後のことだ。