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レッドブル RB19 のフロアやサスペンションを観察すると、その圧倒的なパフォーマンスを説明するための多くの手掛かりを得ることができるが、どうやってライバルよりも DRS によって大きなゲインを得ているのか、この1点だけは、これまで完全に解明されてはいない。
恐らくだが、ディフューザーの傾斜の形状と、その傾斜の後端を下段のビームウィングにどれくらい近づけるかに、重要な手掛かりがある。
まず、レッドブルがライバルのマシンよりも DRS による速度の上昇幅が多い傾向にあることを、幾つかの例を挙げて見てみよう。
DRS 使用時と未使用時の速度
イベント | レッドブル | フェラーリ | メルセデス |
ジェッダ DRS使用時 | 343km/h | 333 | 330 |
ジェッダ 未使用時 | 317 | 313 | 311 |
(ゲイン) | 26 | 20 | 19 |
メルボルン DRS使用時 | 329 | 323 | 324 |
メルボルン 未使用時 | 308 | 307 | 306 |
(ゲイン) | 21 | 16 | 18 |
バルセロナ DRS使用時 | 333 | 332 | 332 |
バルセロナ 未使用時 | 308 | 310 | 304 |
(ゲイン) | 25 | 22 | 28 |
注目すべきはバルセロナで、ここはドライの条件下で予選と決勝が比較可能な直近のレースなのだが、メルセデスが DRS によって最も大きなゲインを引き出している。つまり、彼らはこの領域において、レッドブルの強さに対抗しうる何かを見つけ出した可能性がある。
だが、レッドブルは大抵のレースで DRS の効果が最大で、しかも殆どのレースで DRS 無しのストレートエンドのスピードも最速なのである。彼らはいったい、何をやっているのだろうか? 説得力のある仮説のひとつは、ディフューザー、ビームウィング、リアウィングをひとつのまとまりとして構成させている、というものだ。
現行のマシンの場合、メインウィングにある DRS のフラップが閉じている状態だと、気流はディフューザーの傾斜角に応じて立ち上がり、次にビームウィングによって、メインウィングの下側へ向けられる。
こうすることで、メインウィングで発生するダウンフォースが増加するのだが、この一連の気流の流れには、次のような利益も生まれる。ディフューザーの背後にある個々の負圧の領域によって、効果的に気流を加速したり向きを変えたりすることができ、ディフューザーの天井に気流を沿わせておくことが容易になる。ディフューザーの後方で起きていることが、ディフューザーの内側に影響を与えているのだ。
DRS を使ってフラップを開けると、ウィングによるダウンフォースが失われ、ビームウィングとの気流の繋がりが破綻する。上段のウィングによる引き抜き効果が無くなるからだ。つまり、上段のウィングそのものと、機能しなくなったビームウィングのもの、このふたつのドラッグが削減されていることになる。
レッドブルは、これらふたつのウィングの関連性を最大化するよう、ビームウィングの形状をかなり攻めたものにしているだけでなく、ディフューザーの先端を下段のビームウィングに接触する手前まで接近させ、ディフューザーの傾斜を、更に大きなひとつの傾斜に拡張することで、上段のウィングへ向かう気流に役立てている。
このことで気流は強く、安定的になるはずであり、また同時に、DRS 使用時には、より大きなダウンフォースを削減することで、より大きなドラッグが削減されているはずだ(すべてのダウンフォースは必ずドラッグを伴う)。
しかし、ディフューザーの傾斜にも、ひとつ先を行く微調整が確認できる。ジョルジョ・ピオラの図を見ると、他のマシンのディフューザーは単一の仰角を持つのに対し、レッドブルのものは2段階になっている。最初の角度から一旦は強くなり、再びなだらかになることで、天井に若干の凹みを持たせ、ビームウィングと繋がる手前でまた仰角を強くしている。
ここにはどんな意味があるのだろう? ビームウィングやトップウィングと連携させて積極的に機能させているときには、気流がこの天井にしっかりと沿うことで安定する一方で、ひとたび連携が失われると、段階的な形状を持つ天井のところで気流が沿えなくなっているのではないか。
このように表面から気流が剥離し、突然ディフューザーが全く機能しなくなると、そこで生み出されていたダウンフォースとドラッグが減少する。
突き詰めると、この2段階の跳ね上げと、ビームウィングを近くまで寄せることによって、DRS を使うと即座に、フロアからディフューザー、ビームウィング、そしてウィングで発生させているダウンフォース全体を、より効果的に消失させている可能性が高い。この裏付けは取れていないものの、レッドブルがこのような独特のディフューザ形状を採用しているのには理由があるはずなのである。