レッドブル RB19、その驚異的な速さの3つの鍵

出典:

www.formula1.com

 2023年の F1 シーズンは、レッドブルの開幕2連勝で幕を開け、ライバル達は今週のオーストラリアグランプリに向け、追い上げを試みている。今週の Tech Tuesday では、レッドブルのマシンが2023年の開幕を支配する鍵となった領域を、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に解説する。

 今シーズン、レッドブルはその性能差を広げ、ライバル達は RB19 を詳細まで研究することとなった。今年のマシンは、昨年のものと似ているにもかかわらずだ。

 このマシンの空力パフォーマンスの鍵は、他者にとって、現行のレギュレーションのすべてを解読することと同義かもしれない。昨年の RB18 の時点で、大きく湾曲したトンネルの天井や、極端な角度を持つダイブ抑制ジオメトリのフロントサスペンションなど、いくつか独特の特徴が存在していた。

 RB19 のフロアを確認する機会は未だに得られていないが、フロントサスペンションでは、アンチ・ダイブの極端な角度が踏襲されていることが分かっている。

 また、リアサスペンションでも、大胆にアンチ・スクワットがおこなわれている。上段のウィッシュボーンの後ろ足が、前足よりも高い位置にマウントされ、以前の設置位置だったギアボックスよりも更に上にある構造となった。

 湾曲したトンネルの天井、アンチ・ダイブのフロント、アンチ・スクワットのリアサスペンションという3つの要素と、これらを総合して機能させる方法が、レッドブルの強力なパフォーマンスと密接に繋がっていると考えられる。

レッドブルは上段のウィッシュボーンの後ろ足を、更に高い位置にマウントした。以前接続していたギアボックスよりも更に上の構造となっている

 ブレーキング時、マシンのノーズが沈み込むのを抑えるフロントサスペンションが必要なら、デザイナーは上段のウィッシュボーンの前足を、後ろ足よりも、シャシーの高い位置にマウントすることになる。このふたつのマウントポイントがなす角度は、レッドブルの場合ほぼ45度で、これは非常に極端だ。

 例えばメルセデスは約15度である。この角度をつければつけるほど、抑止力は高くなる。

 リアをアンチ・スクワットにすることで、加速時にマシンのテールが下がり、自然と沈み込んでいくのを抑制することができる。これを実現するために、サスペンションの設計者は、上段のウィッシュボーンの後ろ足を、前足よりも高い位置にマウントすることになる。

 これらには明らかに不利な面がある。アンチ・ダイブでは、フロントブレーキがロックしやすくなるし、ドライバーはブレーキペダルから得られる感触を失う傾向を伴う。アンチ・スクワットでは、トラクションをかけにくくなる。では何故、チームはこれらを推進しているのだろうか? 理由は明らかで、マシンの空力パフォーマンスの向上と、様々なダイブ、ロール、スクワットアングルにおいて、アンダーフロアにパフォーマンスを発揮させるのに有利だからだ。

RB19 と RB18 のフロントサスペンション比較...

...この比較により、フロントの車軸を前に移動し、ホイールに沿って流れてくる気流の制御に役立てていることが分かる。

 マシンがブレーキングでダイブすると、フロントウィングで得られるグランド・エフェクトが強力になる。この時、空力的な重心は前方に移動することになる。ドライバーがブレーキから足を離すと、地上高は元に戻り、重心も後方へ移動するが、その後スロットルを開けると、重心は更に後方へ移動する。この効果は、昨年のレギュレーション変更でマシンに搭載されたグランド・エフェクト・トンネルによって、より強調される。

 昨年は、この重心移動の反応が大きすぎるマシンを何度も見る一年となった。ブレーキング時に不安定になった上に、コーナリングの早い段階で重心が後方に移動し、うまく回頭できなくなっていたのだ。

 特にスロート部(地上高が最も低い位置)でのトンネルの天井を他よりも湾曲させることで、理論的な最大ダウンフォースには届かないものの、この急激な転換を和らげ、より漸進的にしていると考えられる。

 ブレーキング時にダイブしにくいマシンは、重心の急激な前方移動が発生しないため、コーナリング中にバランスの一貫性を保ちやすい。同様に、加速時に沈みにくいマシンは、コーナーを抜ける時のバランスに一貫性が増し、ドライバビリティも良くなる。

 フロントの車軸を(レッドブルがやったように)僅かでも前方へ寄せることは、『ホイール・ウェイク』(ホイールに沿って曲がり、トンネルの吸気口に向かう気流)を制御するのに貢献しているはずだ。これは一貫性にも役立つだろう。

サウジアラビアでの SF-23(左)と RB19(右)のビームウィング比較、レッドブルフェラーリよりも過激なデザインであることが明確に分かる

 レッドブルは DRS 使用時のドラッグ削減量においても、アドバンテージを見出している。これもまた、先代のマシンより RB19 が優れている領域だ。ジェッダでのライバルとのストレートエンドでの速度を比較すると、DRS が無い時のアドバンテージは小さいが、DRS を使うと劇的に拡大する。

 DRS によってメインウィングのフラップが開いた時に、ビームウィングのドラッグ(とダウンフォース)も大きく軽減させていると思われる。2枚のウィングの間を抜ける気流が弱まり、そのことでアンダーフロアの気流も遅くなり、ドラッグ(とダウンフォース)が更に減少するのだ。

 これによってレッドブルは、長めのギアを選択し、ドラッグ削減によるアドバンテージを最大限に活かすことができている。

 現状ではあるものの、以上のような極まった開発が、今年のマシンを先代よりも更に圧倒的なものにしているのだ。