バクーでレッドブルがストレートで対フェラーリのアドバンテージを広げた理由とは?

出典:

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 下表の通り、先週末のバクーでは、レッドブルの DRS ゾーンでの驚異的なパフォーマンスが再び発揮された。同じようなマシン特性が要求される2戦前のジェッダと比べ、RB19 のフェラーリに対する優位性は拡大している。

 これらのトラックは全開区間が長く、各チームは通常走行時のダウンフォースレベルの削減を甘受する。同時に減少するドラッグによるラップタイムへの好影響の方が、ダウンフォースの減少によって失うものを上回るからだ。

 しかし、この選択は、通常のマシン開発と組み合わせる場合は特に、単なるリアウィングのレベル選択という話では収まらない。この典型例がバクーのレッドブルで、彼らはラジエーターの吸気口の幅を広げつつ、薄くしたボディワークを持ち込んでおり、これはバクーに特化したものではなく、計画されたマシンの空力開発の一環である。

レッドブルフェラーリのストレートスピード比較
トラック レッドブル フェラーリ
ジェッダのバックストレート 338km/h 332km/h 6km/h
バクーのホームストレート 342km/h 333km/h 9km/h

 レッドブルはこの変更の目的を、ラジエーターへ導かれる気流の圧力を調整し、後方の排気口を小さくすることだと主張しており、ジェッダに比べてマシンの空力効率が向上させている。そのため、どんなリアウィングを選択したとしても、この変更による大きな影響を受けてのこととなる。

 それに対し、フェラーリがバクーに持ち込んだマシンの追加開発はごく僅かだった。リアの上段ウィッシュボーン前足の空力的な鞘形状を深くし、その後方(ブレーキダクトやディフューザーウォール)へ、より整った気流を当てるようにした以外では、メルボルン以降の変更は、バクー専用のローダウンフォース仕様のリアウィングのみだった。

 フェラーリがバクーで使用した2本の支柱を持つウィングは、同じようなトラック特性を持つジェッダで使用したものとは、別系統のウィングだ。実際、フェラーリは昨年のバクーでも、両端が直線的で薄いメインプレーンと、フラップ上端を切り取った、全く同じウィングを使用している。

レッドブルの新しいラジエーターの吸気口(左)は、以前(右)よりも幅が広く、高さが小さくなっている。同時に持ち込んだボディワーク周辺とフロアエッジの変更と合わせて、空力と冷却の効率化を図っている

 ジェッダで使用した単独支柱のウィングは、窪みの深いメインプレーンを持ち、より大きなダウンフォースとドラッグを生み出すだろう。言い換えれば、バクーでのフェラーリは、ジェッダよりもローダウンフォースのセッティングで走行したことになる。これらのトラックが同じような特性(ジェッダは1周の全開率 80%、バクーは 75%)を持つにもかかわらずだ。

 レッドブルがバクーで使ったウィングは、彼らがジェッダで使ったウィングとほぼ同じで、フェラーリのウィングで言うと、バクーで使ったローダウンフォースの物より、ジェッダで使った方に近い。レッドブルはウィング下部の2枚のビームウィングのうち1枚を取り外し、フェラーリはこれらのビームウィングの両端を切り落としていた。

 シャルル・ルクレールがポール・ポジションを獲得したラップと、2番手のレッドブルマックス・フェルスタッペンを比較すると、ラップの締めくくりとなる 2.1km の長くうねりのあるみなしストレートでは、その距離の割にフェラーリが速かったことが分かる。このことは、彼らのウィングレベルと一致している。

アゼルバイジャンでのフェラーリのリアウィング(左)とサウジアラビアのもの(右)

 サーキットの 4.5km(ターン16 からストレートに出た後、約400mの)地点では、フェラーリの速度は 291km/h、レッドブルは 286km/h だった。レッドブルはその先の数百メートルで徐々にゲインしてゆくが、レッドブルがスピード面で大きなアドバンテージを得るのは、DRS を作動させた時に限られる。

 今開催の短い DRS 区間において、レッドブルは 0.231秒のラップタイムを取り戻していた。ターン3手前の2番目の DRS ゾーンでは、更に 0.1秒弱を取り戻している。

 バクーでのレッドブルは、フェラーリよりも大きなウィングで走行していたが、その差はジェッダより広がっており、薄いウィングのフェラーリよりもドラッグが大きかった。DRS ゾーンでのレッドブルのゲインはフェラーリ(と他の全チーム)よりも常に大きいが、バクーではその差が更に広がったのだ。

黄色の部分(左)は、フェラーリの上段ウィッシュボーンの前足で、空力目的の鞘形状を伸長している。ここを抜けて後方のダウンフォースを発生させるコンポーネントへ向かう気流の改善が狙い

 ルクレールは、メルボルンでマシンのセットアップ面で進歩があり、それによって、バーレーンやジェッダとは異なる方法で走ることができるようになった、と語っている。これは、ポーパシングを発生させること無く、以前よりも低い車高で走れるセットアップをチームが発見したことを指しているのだろう。

 バクーでは、フェラーリがそれまでのレースよりも、アンダーボディから多くの火花を散らしていることが確認できた。車高を下げればアンダーボディのダウンフォースが大きくなり、同じダウンフォースを得るのに必要なリアウィングは小さくなる。マシンの空力効率が改善したということだ。しかし、ウィングを小さくすると、DRS の効果も小さくなる。減らせるドラッグが小さくなるからだ。

 結局、フェラーリがどちらを選択しても、レッドブルは安泰だった。DRS による加速で、フェルスタッペンとセルジオ・ペレスはレース序盤にルクレースを容易くパスし、大きなウィングは、フェラーリよりもリアタイヤの温度を適切に管理する助けとなり、終始、かなりの速さを見せつけた。