奇抜なリアウィングは、マクラーレンがメルセデスやレッドブルとの争いに加わる助けとなるのか

出典:

www.formula1.com

 最近のマクラーレンは印象的なゲインを果たしている。オーストリアグランプリにおいて、ランド・ノリスは、レッドブルマックス・フェルスタッペンのポールを脅かし、レースではメルセデスと同程度のペースで走行し、3位に入った。今週の Tech Tuesday では、マーク・ヒューズがジョルジョ・ピオラのイラストと共に、チームが MCL35M から更に速さを引き出している方法を解説する。

 マクラーレンのリアウィングは主翼と比較して大きなフラップを持つため、DRS で得られる効果が非常に大きく、1周に占める DRS ゾーンの比率が異様に高いレッドブルリンクは正に好都合なサーキットで、フリーエアでも DRS が使える予選のパフォーマンスを後押しするとされている。

 しかし、それを除外したとしても、フランス以降、常に新型パーツを投入しており、効率的なクルマの開発曲線を描いているように思われる。

 これらのパーツの始まりは、ポール・リカールで初めて使われた新型のリアウィングだった。これはかなり独特で、エンドプレート下部のスロットが、標準的な垂直方向と異なり、水平方向に入っている。

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マクラーレン MCL35M のリアウィングのエンドプレート。ポール・リカールで登場した

 車体の中でも空力的に複雑な部分にあるこのスロットは、ディフューザーとリアウィングとの間の気流を最大限に利用するために存在している。これらは気流を巧みに調整し、ダウンフォースを発生させるふたつの要素のパフォーマンスが合計で最大となるような、最良の妥協点をもたらしている。ディフューザーを抜けるように導かれた気流(膨張率と呼ばれることもある)をどれくらい速くできるかどうかで、アンダーボディで発生するダウンフォースの強さが決まる。

 しかし、アンダーボディで発生するダウンフォースを最大化すると、ウィングのパフォーマンスに悪影響を及ぼしてしまう。ウィングの下を抜ける気流が、その下のディフューザーを抜けてくる低圧の気流によって中心に引き寄せられてしまい、ウィング外端の気流が不足してしまうのだ。スロットは、ディフューザーから抜けてきた気流の一部をワイドに広げることで、ふたつの気流を同調させながら合流させる。

 垂直から水平へという独特の変更は、様々な車高や姿勢において、マクラーレンが異なる特性を追求してきたことを示唆している。これにより、多様な走行条件に対して、より良い妥協点を得られることだろう。比較的小さな主翼は、DRS を使っていない状態では扱いが難しくなる傾向になると考えられる。

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新型(左)と旧型(右)のウィング。スロットが垂直から水平に変更された

 この独特のソリューションは、同じく独特な構成のディフューザーと関連しているのかもしれない。このディフューザーは、中央500mmにあるストレーキが、真ん中のトンネルのウォールを形成している。他のクルマは中央のトンネルの幅が広く、ストレーキの高さはレギュレーションによる制限を受ける。高さは限られるが幅は任意に広げることができ、マクラーレンはこの幅が500mmなのだ。マクラーレンの独特なディフューザーが生成する気流が、独特な水平スロットを持つエンドプレートへうまく導かれているのかもしれない。

 オーストリアの2戦目で登場したフロア外端の処理の背景にも、このディフューザーがあるのかもしれない。このフロアは以前よりも、フロアエッジのZ形が緩やかになり、その周辺に印象的にずらりと並べられた小さなガイドベーンが追加されている。

 以前の Tech Tuesday で論じたように、Z形の切り欠きは、圧力を閉じ込めておくための渦流をフロア外端に発生させることで、クルマがより強く路面に吸い付くようにしている。しかし、このZ形を作るということは、当然、ダウンフォースを生み出すフロアの表面積の一部を失うこととなる。

 マクラーレンはスペインでZフロアに切り替えたが、今は極端だったZ形を緩和し、フロア面積をいくらか還元している。Z周辺に並んだベーンは、効果が弱まったZ周辺の渦流を補強するのだろう。

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オーストリアでの新型フロア。複数のベーンと緩やかなZ形を持つ...

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...旧型フロアは、ベーンも少なく明瞭なZ形をしている

 MCL35M の基本設計における重要ポイントである独特なディフューザーと他とは違う構成のリアウィングによって、マクラーレンは独自の開発路線を歩んでおり、クルマへも素早く投入されている。

 この先、まだ何かあるのか、オーストリアのクルマが維持されるのか、興味を引くところだ。