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F1 の技術エキスパート、マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に、来週のメキシコグランプリを予測する。
シーズンで最も高い、標高2,200メートルにあるメキシコシティでのレースは、クルマのパフォーマンスに深刻な影響を及ぼす。
このことは、今シーズンの熾烈なタイトル争いにおいて、レッドブルかメルセデスのどちらが最速のクルマであるかにも影響を与え、引いては、ここでの力関係が残りの5レースにおいて重要な役割を果たすことになると考えられる。
これら2台のクルマは、パワーユニットと空力の両方で、非常に異なる特徴を持っている。メキシコシティは海水面より酸素が約25%薄いため、サーキットは独特のコンディションになる。このことは、2台のクルマにそれぞれ異なる有利不利を生むだろう。
パワーユニット
メキシコでのメルセデスは、いつもパワー面で劣っていた。ハイブリッド世代では圧倒的なパワーユニットを持っている彼らが、どうしてこうなってしまうのだろうか?
酸素が25%薄くなると、当然、空気は燃焼しにくくなる。しかし理論上は、ターボチャージャーの回転速度が上がることで、これが補われる。空気抵抗が少なくなるので、より多くの空気を圧縮することになるのだ。そのためターボによる圧縮空気は、通常と大差のない酸素含有量となる。
しかし実際の状況はもっと複雑だ。F1 では、レギュレーションによってターボの回転速度は 125,000rpm に制限されている。標高が低ければそこまで回転速度を上げることはないが、空気の薄さを埋め合わせるとなると、この制限がターボの性能の限界となる。
ERS-H の電力でターボを回転させることでラグが無くなるので、レギュレーションに則したシングルターボは、そのシステムに見合った大きさになる傾向がある。しかし、ターボが大きくなると、同じ回転速度で発生する熱も大きくなる。
メキシコの空気の薄さによって冷却効率も悪くなる。メルセデスは空気中の低い酸素濃度を埋め合わせるためにターボの回転数を上げると、ライバルのパワーユニットよりも大きな温度上昇に見舞われてしまうようだ。温度が高すぎると、目標とするブーストが得られない。
このため従来のメルセデスは、ここでパワーに関してディスアドバンテージを抱えてきた。レッドブルには、ルノー時代でもホンダ時代でも、ここでは他のどの開催地よりもパワー面で競争力があった。
ダウンフォースとドラッグ
空気が薄いということは、ウィングやクルマのアンダーフロアを抜ける気流と、周囲との気圧差が少ないことを意味する。そのためメキシコでは、クルマが得られるダウンフォースが小さくなる。それもかなり顕著にだ。モナコのようなウィングレベルで走ったとしても、シーズン中最も薄いウィングで走るモンツァよりも、小さいダウンフォースしか得られない。
レッドブル RB16B は、そのハイレーキな設計により、ローレーキのメルセデス W12 よりも、ダウンフォースの上限が高いとされている。
2台のダウンフォースの差が通常よりも小さくなることは、メルセデスにとって有利に働くかもしれない。しかし、ダウンフォースと合わせて、ドラッグも考慮しなければならない。空気が薄いことで、ドラッグも大幅に減少する。そのためダウンフォースとドラッグとのトレードオフの関係が、通常の場所とは大きく異なってくるのだ。
可能な限りのダウンフォースをつけた場合、代償として発生するドラッグは、ここでは通常よりも小さくなる。このことは、トレードオフの効率が悪いクルマの助けになる。それはレッドブルのような、ハイレーキの空力コンセプトをもつクルマだろう。ハイレーキは本質的に、このトレードオフにおける空力効率が悪い。メキシコでは他の殆どの開催地よりも、この影響が小さくなる。
タイヤとブレーキ
薄い空気は冷却能力も低くなるため、タイヤと、特にブレーキを所定の温度に保つことが大きなチャレンジになる。
歴史的に、メルセデスはブレーキの冷却面で他のクルマよりもギリギリのところを攻めている。ドライバーの温度管理を頼りに、フロントのブレーキダクトの空力パフォーマンスを最大限まで高めていた。
対してレッドブルのブレーキダクトはメルセデスのもの(上の一連の図)よりもかなりシンプルで、大きな冷却能力が見込まれる。レッドブルは通常、メルセデスとは異なり、中にある『ケーキの焼き型』ドラムの覆いを一部開放して走行している。メキシコでこれが変わるのか、興味深いところだ。
タイトルを争うふたつのチームが、各開催地でそれぞれ相手より優れたパフォーマンスを追求するなかで、思いもよらない複雑な要素が決定的となることがよくある。しかし、メキシコの週末を迎えるにあたり、レッドブルには自信が、メルセデスには警戒心があることは、極めて明白だ。