カタールではレッドブルのリアウィングが振動していたが、何が起きていたのか?

出典:

www.formula1.com

 カタールでは、レッドブルの振動するリアウィングが注目を集めていた。マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に、ストレートでウィングが奇妙な動きを呈する理由を考察する。

 カタールの週末でのレッドブルは苦戦し、マックス・フェルスタッペンは、ルイス・ハミルトンメルセデスが圧倒的ななかで、2位とファステストラップを獲得し、ダメージを最小限にとどめた。初めて F1 を開催するこのサーキットで、これら2台のマシンの違いを明らかにするには、コーナーの進入時にそれぞれのクルマがどのように向きを変えているかを考える必要があり、これはタイヤをどのように機能させているかに繋がる。

 左フロントリミテッドであることは、誰にとっても同じだった。ここがパフォーマンスのボトルネックであり、マシンの性能を引き出すためには、左フロントをうまく労わる必要があった。

 フロントリミテッドのトラックでは、メルセデスレッドブルよりもうまく対処できており、フェルスタッペンは常にクルマを『回転させる』――ステアリングを切った際、フロントとリア、両方のタイヤが想定通りのスリップアングルとなる理想的な初期応答を得る――ことに苦労していた。

レッドブルはフロントリミテッドなロサイルサーキットで苦戦した

 通常、メルセデスレッドブルよりもフロントに荷重を置く傾向にあり、逆にレッドブルは、メルセデスよりもリアを強くし、リアタイヤを労わっている。

 レッドブルは、土曜日の FP3 から予選にかけて、より大きなリアウィングへの変更を強いられ、バランスが悪化するという困難に見舞われた。オースティンやブラジルと同様、レッドブルの標準的なリアウィングには、DRS を使用した際、フラップが振動する問題が発生した。

 DRS は油圧アクチュエータによって制御され、フラップ上の気流による圧力に逆らい、エッジを軸に回転する(つまり不具合で、通常の閉じた位置になってしまう)。

 これにより(訳注:フラップ間の)ギャップが広がり、空気抵抗が減少、ストレートスピードを後押しするのだ。この時の圧力は速度の2乗に比例するため、フラップのギャップを維持するアクチュエータには、大きな力がかかることになる。

 この力が限界に達すると、レッドブルのフラップには振動が発生する。そしてアクチュエータがギャップを維持できないことによって気圧が大きく変化し、共振を招いてしまう。

 オースティンやインテルラゴスのようなバンピーなサーキットでは、強度が足りない(両サーキット共、エンドプレートを補修した)ことと、振動が発生する周波数が低下するという2つの要因によって、トラブルが誘発されたのだろう。

 カタールはそこまでバンピーではないが、縁石にフロントタイヤが乗り上げることで、またも強度不足が露呈することになったのかもしれない。

 レッドブルのアクチュエータは重量の削減を狙って極めて細く、リアウィングそのものの輪郭もタイトだ(下図)。

レッドブルのリアウィング上の細い DRD アクチュエータ

 彼らには選択の余地があった。DRS アクチュエータは、コスト削減の一環として昨年から、ホモロゲートされたパーツのリストに加えられている。新しく DRS アクチュエータを設計するには開発トークンを消費する必要があるが、彼らは与えられた2つのトークンを新型のギアボックスに使用したのだ。

 このことでアクチュエータを新しく設計することは不可能となり、カタールの金曜日にこの問題が発生すると、土曜日に向けて、下図のような固定箇所の補強をおこなった。しかしこの対策は、残りの週末で大きなウィングを選択したことで、意味のないものとなってしまう。

カタールの金曜日でのレッドブルの DRS アレンジ、赤矢印は接続点

 

レッドブルは FP3 に向けて、DRS の接続点を補強した

 では、このフラップの振動問題が、シーズン序盤は発生せず、ここ数戦になって発生するようになったのは何故だろうか。ウィングは同じように見えるし、アクチュエータも変わっていないにも関わらずだ。この原因は明らかになっていない。

 チームは、ダウンフォースが必要な低速域での剛性を保ちつつ、高速域ではウィングに柔軟性を持たせてドラッグを軽減する方法を、常に探し求めている。

 この振る舞いを実現するため、シーズン序盤で使っていたウィングと同じ構造であっても、異なるカーボン組成にしている可能性がある。もしそうであれば、矢継ぎ早な三連戦では、対策を施したウィングを設計し、レースに間に合うようトラックに持ち込むことはできないだろう。