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マシンのほぼすべての部分に影響を及ぼす大きな空力規約の変更が、2022年に控えている。マーク・ヒューズが、ホイールやブレーキ周辺のあるデバイスを禁止することが、接近戦の促進にどう影響するのか、ジョルジョ・ピオラの技術イラストと共に解説する。
スリリングな2021年の覇権争いがどのような決着をみるのかも重要だが、最後の2戦には他にも大きな意味がある。2017年に導入された現行の F1 マシンをトラックで見ることができるのも、あと2回なのだ。2022年は、新しい空力レギュレーションが施行される。これは多くの研究を重ねたうえで策定されたもので、今よりもホイール・トゥ・ホイールでの争いを促進させる狙いがある。
これを達成するための指針となる原則の一つが、マシンのアウトウォッシュを大幅に削減することだ。これにより後方の乱流が抑えられ、現行のマシンと比べ、追従した際のダウンフォースの減少が少なくなる。
アンダーボディ、車体表面、ウィングなど、新しいマシンの全体的な形状は、この原則を念頭に定められている。また、サスペンションやホイールなどの細かい部分についても、この原則のもと、規約の変更がなされている。
ここ数年で、サスペンションのアッパーアームは、ホイールハブに直接ではなく、ハブから伸びるエクステンションにマウントすることが当たり前になってきた。
これを初めて導入したのは2014年のメルセデスとトロロッソだが、背景にあったのは純粋に空力目的である。これにより気流の通り道が更に大きく確保され、邪魔になる位置にアッパーアームを接続するよりも多くの気流を強制的にアウトウォッシュすることができる。このエクステンションにマウントする方法は禁止され、サスペンションはホイールハブの高さでマウントしなければならなくなる。
新しいレギュレーションは、フロントサスペンションのプルロッド(最後に採用したのは2016年のフェラーリ)への回帰を狙っているわけではない。現在、プッシュロッドが広く使われている理由は、空力的に重要な部分でのコンパクトな構造が有利だからだが、これは引き続き当てはまる。
プッシュロッドの場合、サスペンション内側のロッカーは車体中央の高い位置にマウントされ、ホイールがバンプを乗り越えると、サスペンションアームがロッカーを押し上げる。
プルロッドの場合、ロッカーは低い位置にマウントされ、同様の状況で、サスペンションアームによって引っ張られることになる。ロッカーを高い位置に持ってくると、ノーズ下部がスッキリとして、気流をより効率的な方へ向けることができる。新規約のマシンではアウトウォッシュの削減が図られているため、同じ方向にはならないが、気流を意図した方向に向けることは依然として有益であり、それはマシンのアンダーボディへ向けられる。
その後、メルセデスを始めとする何チームかは、マシンのリアでも更なる空力効率の上昇を追求するようになり、リアサスペンションのハブにもエクステンションが見られるようになった。これも後方へ気流を巻き上げることになり、来年の次世代マシンからは排除される。
また、2022年に制限を受けるサスペンションの機能として、ステアリングがロックした際、テコの働きでフロントの車高を変化させる機構が挙げられる。この革新的な機構は、2018年にフェラーリが導入したもので、これによってステアリングをロックするまで切るような低速コーナーでフロント車高を下げ、アンダーステアを低減している。
サスペンションのロワアームにブラケットを用いて、ステアリングからの入力が、そのロックする位置を越えると別の経路で伝わり、車体の前方が引き下げられ、車高が低くなるのだ。これによって空力的なグリップが増加するが、前のマシンによって気流が遮られると、この効果は大きく低下し、前のマシンが有利になってしまう。
2022年は、これらがホイールハブの内側25mm以内で接続しなければならず、得られるテコの効果が制限される。
シミュレーションでは、マシン1台分の間隔で後ろから追従した場合、現行のマシンでは総ダウンフォースが約40%に減少するのに対し、新しいレギュレーションでは84%が維持されるという。
この値は、新時代のホイール・トゥ・ホイールでの争いが連想され、興奮を掻き立てる。