2022年の新型フロアは、どのように接近戦を促進するのか

出典:

www.formula1.com

 前回の Tech Tuesday に引き続き、2022年に刷新される F1 のルールをマーク・ヒューズが解説していく。今週は、マシンの新型フロアと、それによる各チームの設計哲学の変更や、トラック上での争いの変化を確認する。

 2022年の新しい空力レギュレーションの肝は、そのフロアである。1983年から採用されていたフラットなフロアはなくなり、中央のプランクの両側に、フロントからリアへかけて大きな2本のトンネルを持つフロアとなる。

 これにより、アンダーボディで発生するダウンフォースが大きくなり、車体の表面に規制が入るのと相まって、アンダーボディ由来のダウンフォースの全体に占める割合が非常に大きくなる。

 各チームがシーズン中に新しいマシンを理解することによって改善する分を加味すると、おおよその総ダウンフォース量は、新旧でほぼ同じになる見込みだ。しかし、車体の表面と裏面とで発生するダウンフォースの比率が変わることで、レースは大きく改善すると考えられている。

プランクの両側に『ヴェンチュリ』形状のチャネルを持つフロアの 3D 仰視図

 フロアのチャネルは、大きな給気口と中央部の絞り込み、そして再び大きな排気口を持つ、『ヴェンチュリ構造』となっている。この形状の裏面と路面とで形成するトンネルによって、リア付近の膨張する部分の気圧が、絞り込んだ部分の空気を強く引き抜く効果が生まれる。

 気流をより速くすれば、アンダーフロアとその反対側との圧力差が大きくなり、マシンはより強く路面に吸い付けられる。

 トンネルはサイドポッドの前方から始まり、大きな給気口には最大4枚の小さなフェンスがあり、各チームは規定の範囲内で、その形状や角度を決めることができる。これらは気流を吸気口へと導き、車体の外側へ流れる気流を最小限にしている。

 アウトウォッシュは乱流となり、後続のマシンが追従するのを困難にさせる。このアウトウォッシュによる影響を最小限に抑えるのが、今のレギュレーションの最優先事項だった。これらのフェンスは、それぞれの圧力差によって吸気口へ気流を引き寄せつつ、その気流を加速する渦を生成する。トンネルを抜ける気流を加速することで、更に多くのダウンフォースを得ようというのだ。

マクラーレンの2022年型マシンと2022年型(コンセプトモデルにマクラーレンの2021年のカラーリングでリバリーしたもの)との俯瞰比較、フロア形状の変化が確認できる

 トンネルのこの部分の効果を最大限に高めるには、マシン側方から抜ける気流を防止し、トンネルを周囲から密閉する必要がある。フェンスによって発生した渦や、前方に露出したフロア表面の側端に沿って設けられた横方向のウィングは、この役割を担っている。

 トンネルの排気口は上に向いて傾斜がついており、その傾斜はビームウィングの下に向いている。ビームウィングと、その両側のフェンスによって、気流を高い位置に吹き上げる。以前のディフューザーからの排気は、低く、ワイドに排出されていた。

 気流の多くが後続マシンのフロントウィングよりも高い位置に抜けることで、そのフロントウィングが受ける気圧は高くなり、かなり効率的に機能させることができる。その高圧はマシン全体に及び、接近して追従したときの空力は、以前よりも遥かに機能するようになる。

 トンネルの排気口は、以前のディフューザーよりもかなり前方にあるため、(前後の重量配分に相当する)空力的な重心も前方へ移動するだろう。しかしフロントウィングで得られるダウンフォースは減少しているので、実際の前後の空力バランスは以前と同程度、単独で走行した場合およそ4対6になると考えられる。ただし、前のマシンに追従した場合のバランス変動は、遥かに小さくなる。

 フロントタイヤにかかるダウンフォースは、ウィング由来よりもアンダーフロア由来の方が多くなるため、前のマシンの乱流に対する過敏さが大きく緩和される。

 以上のように、ヴェンチュリトンネルは、ドライバー同士の接近戦を容易にし、トラック上での順位変動を促進する秘訣なのだ。