出典:
フェラーリ、レッドブル、そしてメルセデスが、アゼルバイジャングランプリで直面するセットアップのジレンマと、今週末の戦力分布が、予想されているほど単純なものではない理由を、マーク・ヒューズが解説する。
バクーは、相反する空力特性が要求されるという点で、独特なトラックである。カスピ海の海岸線に沿って走る“ストレート”(全開で抜けるカーブを含む)は 2km に及び、薄いウィングでラップタイムを稼ぐことができる。
しかし、中間にある古く歴史的な町並みを抜ける区間はモナコ並みにタイトで、ダウンフォースを最大化したセッティングが求められる。このレイアウトに必要なウィングレベルは、カレンダーで両極端なふたつ、即ち、超ローダウンフォースのモンツァと、超ハイダウンフォースのモナコを組み合わせたものなのだ。
つまり、ここでは“正解”と言えるようなウィングレベルは存在せず、高低どちらのダウンフォースセッティングにおいても、同じようなラップタイムを出せる可能性がある。単に、どこで稼ぐかという話である。少なくとも初開催の2016年以降はそうだったが、以前よりもアンダーフロアで大きなダウンフォースを得ている新世代のマシンでも同様なのか、興味深いところだ。
基本的に、ローダウンフォースの場合、1周のラップで若干有利になるが、リアのスライドが大きくなるため、リアタイヤのデグラデーションがひどくなる危険をはらんでいる。昨年のメルセデスとフェラーリは薄いウィングを選択し、レッドブルが最速のマシンを持っていた状況のなか、シャルル・ルクレールがルイス・ハミルトンのメルセデスを下し、フェラーリにポールをもたらした。
しかし、かなり大きなウィングを選択していたレッドブルは、タイヤのデグラデーション面で優れており、決勝では最速だった。
マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスは、最初のピットストップでハミルトンをオーバーカットして先頭から引きずり下ろした。この時のタイヤは、ハイダウンフォース仕様のウィングのおかげで長持ちし、スティントの最後まで力強いパフォーマンスを発揮していた。
歴史的に、マシンに競争力があれば、チームは大きなウィングを選択する傾向にあり、競争力を求めるチームは、グリッドポジションに全力を注ぎ、後は決勝でそのポジションの死守するというギャンブルに出る傾向にある。メルセデスがここで圧倒的な強さを発揮していた時期(2016年から2019年)、彼らはかなり大きなウィングで走行していたし、2016年と2017年、彼らのライバルであるフェラーリとレッドブルは、ウィングを薄くしていた。
2018年のフェラーリのマシンは速く、ハイダウンフォースのセットアップでメルセデスと渡り合っており、それは2019年も同様だった。しかし、2021年は状況が変わり、レッドブルが初めてバクーでクルマ本来の速さに自信を持って臨み、ライバルたちより大きなウィングを使った。
今年は、すべてのトラックにおいて、フェラーリとレッドブルのパフォーマンスには特徴的なパターンがある。レッドブルはフェラーリよりも薄いウィングを使いストレートエンドで速く、フェラーリは殆どの場合、コーナリング速度が高く、脱出時の加速も優れている。
バクーではどのような展開になるのだろう? 元から大きめのドラッグでダウンフォースを得ているフェラーリが、この方向性で適切なウィングを選択し、リードするのだろうか? 昨年上手く嵌ったように、本来はドラッグの低いレッドブルが、贅沢なまでに大きなウィングで走行するのだろうか?
メルセデスがここで迫られる選択は、実に興味深い。バルセロナでは、空力的なポーパシングが解消され、W13 にストレートでの競争力があることが示された。薄いウィングと組み合わせれば、ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルが、予選でレッドブルやフェラーリに一矢報いることができるかもしれない。しかし、決勝でタイヤのデグラデーションが大きくなることを承知で、それをやるだろうか?
メルセデスはマイアミに超ローダウンフォースのリアウィングを持ち込んだが、バクーでは、そのウィングと、大きな窪みを持つ通常のウィングとの二択になるだろう。
これまでと同様、バクーでの各チームの選択には興味をそそられる。週末の戦力分布は、これまでとは異なる様相を呈するかもしれない。