レッドブルのフロアに隠された秘密とライバル達との違い

出典:

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 モナコでは2年連続となったセルジオ・ペレスの事故によって、レッドブルの優れた空力の中核と考えられているアンダーフロアの詳細を比較する、絶好の機会が訪れた。

 昨年型のフロアは、それ自身が既に、ライバル達よりもかなり洗練されたものではあったが、今年の RB19(下図)を見ると、それを更に発展させたものであることが分かる。

 昨年、現行の『グランド・エフェクト』規定が導入された際、他のチームはトンネルの天井高を低くして、理論的にアンダーフロアとその上を越えてゆく気流との圧力差を最大化することに集中した。

 トンネルを左右に分岐しているアンダーボディの平坦な部分は、およそ涙滴形をしており、その形状から『カヌー』部と呼ばれている。この平坦なエリア(レギュレーションで定められたプランクが取り付けられるところ)の両サイドの輪郭によって、トンネルの全長にかけての横幅が決まる。

 昨年のレッドブルのフロアは、これらのようなものではなかった。トンネルの天井は高くアーチ状で、ライバルたちの角ばった低い天井とは大きく異なっていた。更に中央の平坦部は涙滴やカヌーと言った形状ではなく、かなりでこぼこしており、全長に渡り、急激に変化しているところがあった。

ペレスのモナコでのクラッシュにより、レッドブルのフロアデザインがライバルチームに晒されてしまった

 レッドブルのような天井の高いトンネルの場合、理論上、他の天井が低いトンネルによる吸引効果を得ることができないと考えられる。しかし、フロアが路面に接近することで発生する気流のストールが起こりにくいアンダーフロアになる。

 更に、カヌー部の形状は比較的薄く、直線的なもので、後方にかけて狭くなっていく手前で、かなり大きな容量の空間を作り出している。

 気流を送り込むことができる容量の確保と、気流の速度をどれくらいにするのかには、妥協点が存在するのだが、レッドブルの場合は、この妥協点が明らかに大きく異なっている。ダウンフォースが、多様な気流の量と速度によって生成されているようなのだ。

 このような形状によって、レッドブルは、比較的柔らかいサスペンションを持つマシンを開発できるようになったと考えられる。

ルイス・ハミルトンモンテカルロの公道でクラッシュを喫し、メルセデスのフロアの詳細が明らかになった。アップグレードされた W14 の中央の『カヌー』部は、昨年よりもレッドブルに似たものになっていたが、未だに今年のレッドブルのような複雑かつ精巧なものではない

 ダウンフォース(これは通常、速度の2乗に比例する)によって、マシンはそのサスペンションに押し付けられる。レッドブルのようにサスペンションを柔らかくすれば、高速域でマシンは更に低く押し下げられる。

 このようにして、任意の速度でレッドブルのマシンは更に低く押し下げられているため、他よりも高い天井のトンネルであるにもかかわらず、実質的にライバルたちの天井の低いトンネルと同程度の地上高となる。故に高速域で豊富なダウンフォースを得られているのだ。つまり、レッドブルは高いトンネルを低い車高で走らせ、他はその逆で走行していることになる。

 天井の低いトンネルと硬いサスペンションを持つライバルたちのマシンは、車高が低くなった際にバウンシングが伴う。また、フロントサスペンションをアンチ・ダイブのジオメトリとしたことも、レッドブルがライバルたちよりも車高を低くして走行できる要因となっている。ダイブやピッチングが少なければ、マシンの車高を下げて走ることができる。

 高い天井によって大きな容量を持つトンネルは、その吸気口も前方へ広げることができ、これによって更に気流がストールしにくくなり、より大容量の気流を扱うことができる。

 いくつかの特徴は、既にライバルたちによってコピーされている。例えば『カヌー』部は、典型的な涙滴型から、より四角い形状に置き換えられている。しかし、レッドブルは、彼らのデザインの洗練を続けている。

左は2022年型のレッドブルのフロア(プランクは取り付けられていない)で、中央の平坦な部分が、この時から如何に一般的な涙滴型とは対照的であったのかが確認できる。右は2023年型のフロアで、多くの改良が加えられている(詳細は後述)

 今年のマシンのフロアと昨年のものを比較してみると、四角いカヌー部(1)は残されているが、輪郭は微妙に変化している。吸気口周辺にある外側のベーンは、気流を外側へ向けることで、フロアを密封するとともに、マシン側面を下ってくる気流を加速させているが、このベーンがアウトウォッシュする角度が強くなっている。

 トンネルの前方には高くアーチ状の天井(3)が残されているが、後方に続くディフューザーの傾斜の手前は、最初のキックアップポイントとして上向きの傾斜(4)が始まっている。

 この『ダブルキック』はレッドブルによる先鞭ではないが、気流を活性化し、気圧を調整することで、負圧の領域を満たすように流れ込んでいく気流の速度を上げる効果がある。

 フロア後部の外端(5)は、以前よりも更に複雑さを増し、ディフューザーの外側に追加のチャネルを形成している。これは恐らく、'23年のレギュレーションに盛り込まれた、リアのフロアエッジとディフューザーの地上高が引き上げられたことへの対応と考えられる。

 全体として、依然として他のマシンよりも一歩先を行っており、ダウンフォースを制御し、広い範囲でそれを利用しようとする哲学も維持しているように見える。加えて、より極端になったアンチ・スクワットのリアサスペンションと、同じく極端なアンチ・ダイブのフロントの組み合わせによって、マシンのプラットフォームがより制御しやすいものとなり、低い車高で走ることができる特性を更に強調している。