様変わりしたレギュレーション下でパフォーマンスを追い求めた3つの試みとは

出典:

www.formula1.com

 各チームは工夫を凝らし、2023年の空力開発へ向けて議論を引き起こすようなソリューションを生み出してきた。FIA によって、あるものは違法とされ、あるものは合法とされた理由とは? F1 の技術エキスパートであるマーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラの技術イラストを交えて解説する。

 2022年に刷新された空力レギュレーションが成熟した今、後続マシンに悪影響を与える乱流の発生を抑えることで、トラック上での争いを促すという、このレギュレーションの方針に反するようなソリューションが出始めた。

 チームはパフォーマンスを追求する際、後続マシンのことなど気にかけない。常にパフォーマンスがすべてなのだ。このため、この方針に沿ったレギュレーションの効果がある程度薄れてしまうことは、予測の範囲内なのである。

 重要なのは、これらが桁が違うほどの差異を生んでいないことだ。FIA は、各チームが持ち込んだ様々な開発による影響を、風洞とトラック、両方のデータで監視しており、今のところ、どの変化も軽微なものだと満足している。

「後続マシンの気流がどの程度乱れるのかを示す客観的データが得られている」と、FIA のティム・ゴスは語る。「引いては、空力負荷の観点でも利用できるということだ。以前のマシンのことも理解しているし、チームが実際に開発を始める前に固める仕様で実現できることも分かっている」

「チームが開発に取り組むのは当然で、それによって少し損なわれることも分かっている。少し後退することは確認しているが、それでも、以前よりは桁違いに良くなっているんだ」

 では、些細とはいえ、後続マシンの気流を悪化させた開発とは何だろうか。

新しいレギュレーションの目的は、マシンの後流が後続マシンに与える影響を減じることだ
エンドプレートの切り欠き

 これはメルセデスが昨年のマイアミで導入し、その後、アルファロメオレッドブルが追従したものだ。

 レギュレーションでは、ウィングエレメントからエンドプレートにかけての連続面が定義されていた。これには、各チームのエレメントからエンドプレートへの転換を、ウィング上面の気流を保持し、横方向へ動いてマシンの他の部分へ抜けるこがないよう、均一的な形状とする狙いがあった。

 エンドプレートはウィングで生まれるダウンフォースに寄与するにもかかわらず、チームはサイドポッド前方の空間へ追加の気流を送り込むこととのトレードオフが理想と考えた。

 この転換部分の後方が切り欠いてあるメルセデスのソリューションは、レギュレーションの文言には従いつつ、ウィングの両端から気流を逃がすものだった。これによりアウトウォッシュが増加し、マシンの後流を穏やかなものにする狙いに対しては、多少なりとも逆効果となる。

メルセデスが昨年のマイアミに持ち込んだ切り欠き(上の円内)のあるフロンウィングと、同年のそれ以前まで使用していた旧バージョン(下)との比較
リアウィングのエンドプレートのロール

 フロントウィングと同様に、レギュレーションはリアウィングのエレメントと側面も、連続した面と規定している。これによって事実上、渦流を誘発する鋭角のエンドプレートが違法となる。

 しかし、アストンマーチンは文言を巧みに解釈し、両端の表面がカールしたウィングを導入、これは事実上の先祖返りだった。このウィングはハンガリーに持ち込まれ、以後のシーズンを通して使われた。

 しかし、昨年の残りのシーズンは許可されたものの、2023年に向けてレギュレーションの適用方法に微調整が入り、再び違法とされた。

「時として、レギュレーションは合法と非合法との境界線にあるものだ」と、FIA のシングルシーターディレクター、ニコラス・トンバジスは語る。「このような場合、我々のレギュレーション解釈に基づいて基準を変えたり、基準を明確化したりして対応していく。これらの対応を、一定の時期におこなうことが公平であると考えることもある」

アストンマーティンは2022年のハンガリーに、エンドプレートをロールさせたリアウィングを持ち込んだ

「来年のために言っておいたり、ね。しかし、我々が好ましく思わないソリューションが、完全に合法である場合もある。このような場合に、これを非合法とする理由をでっち上げることはできない」

「我々が一方的にレギュレーションを改変することはできない。規定に従う必要がある。もしチームから十分な同意が得られないなら、そのソリューションの存在を認めるしかない」

 故に、メルセデスフロントウィングは引き続き認められ、アストンのリアウィングの新発想はそうではなかったのだ。

メルセデスの2022年仕様のフロントウイング。赤い矢印はヴォーテクス・ジェネレータと考えられており、フロントホイールの外側へ気流をアウトウォッシュする効果を促進する
空力目的のスロットギャップセパレータ

 昨年のオースティンでメルセデスが導入したフロントウィングは、ウィング上の気流を横に流し、より強いアウトウォッシュを狙っていることが明らかなスロットギャップセパレータを有していた。

 このウィングは、FIA の技術部門が、コンポーネントの主たる目的という文言を満たしていると納得しなかったため、レースでは使われなかった。

 しかしながら、この定義は実際的ではないことが認められ、レギュレーションは寸法のみの定義に書き換えられた。従って現在、空力作用を持つセパレータは、新たに定められた寸法を満たしていれば合法となっており、今年はフェラーリフロントウィングで活用されている。

フェラーリの2023年のフロントウィングには、上図の黄枠に示すような、昨年は非合法とされていたスロットギャップセパレータが採用されている