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スペイングランプリの後、バルセロナでアップグレードされたフェラーリの新しいサイドポッドの狙いは、それまでの弱点であった高速域でのダウンフォースの一貫性を強化することであることを確認した。2週間後、マシンのこの部分を更にするべく、フェラーリは新しいフロントウィングとフロアを持ち込んだ。
バルセロナとシュピールベルクでのアップデートは、マシンのまったく異なる部分のアップデートではあるものの、高速域でのリアのスタビリティの向上という、同じ目的を持っている。単純なダウンフォースの増加とドラッグの低下と言うより、未解決の問題に取り組んでいるのだ。
チームのシニア・パフォーマンス・エンジニアであるジョック・クレアはオーストリアで、このアップグレードについてこう語っている。「数値上は正しい方向へ向かっており、更なる一歩だ。だが今回も、単純にダウンフォースを増やしたり、ドラッグを削ったりするための設計ではない。明らかに、マシンの挙動がより穏やかに、かつ予測可能にするために設計されたものだ」
「実際、風洞でこれらを実感するのは難しい。風洞での数値が信頼できると強く信じているし、金曜日の(シャルル・ルクレールがポール・ポジションから僅か 0.04秒遅れだった)パフォーマンスからは確実な手応えが感じられた。ポールを逃して悔しいと思う状況に戻って来れたんだ」
バルセロナでのアップグレードは、サイドポッドの形状を変え、気流の剥離を抑えることで、一貫性を向上させる狙いがあった。今回も目的は同じで、フロントウィングとフロアエッジ間の気流の不安定さを軽減してフロアへ流すことで、挙動を穏やかにすることを狙っている。見た目上、これらは非常に小さな変更で、見つけるのが非常に困難だが、多くの新パーツから成り立っており、計画より2レース前倒して投入された。
フロントのウイングエレメントの形状変更は些細なものだが、フェラーリはこのように説明している。「フロントウィングの全エレメントの再設計:メインプレーン、フラップ、およびエンドプレート。理由:パフォーマンスと整流。通常の開発サイクルの一貫で、このフロントウィングのアップデートは、気流の損失と後方への影響の軽減を目的とし、空力のバランス調整により柔軟性を持たせている」
ジョルジョ・ピオラの図から、ノーズの前にある下段のエレメントの形状が変更され、(黄線により古いアレンジと比較すると)より穏やかな曲線になっていることが分かる。
フロアの変更については、フェラーリはこう説明している。「前方のフロアフェンス、フロア中間部と、ディフューザーのサイドウォールの改良。それに合わせ、サイドポッドのアンダーカットを再設計。フロントウィングのアップグレードと合わせて、フロアのトポロジーを再構成し、損失の管理と負荷分布の再配置により、マシンの効率を上げることを主目的としている」
空力的な表面形状が機能し過ぎてしまい、気流が意図した経路から乖離し、突発的なダウンフォースの減少を招き、一貫性を損なっており、これはマシンがピッチ、ロール、あるいはダイブしている時によく発生していた。空力担当者は、実際に異なる走行条件や速度域で走行した際に僅かに残る特性のために、風洞で得られた最適な条件下での数値を妥協せざるを得なかった。フェラーリの説明にある負荷分布の再配置は、フロアの異なる部分で実現され、一貫性の向上を目指しているのだろう。
フェラーリは、アンダーフロアのトンネルへの入口であるフェンスの形状も変更し、そこへ導く気流の量、速度、そして一貫性を最適化した。これらは気流の圧力差を利用したもので、意図した通りの気流を、ダウンフォースを生み出すトンネルへ通している。これらの改良の基本理念は、一貫性の追求なのだ。
マシンの側面(上図)を見ると、フロントサスペンションの後方にある、フロア前部外側の下がり形状に僅かな変更が加えられていることが分かる。以前は『バージボード』パネルの上端にある、下向きのヴォーテクスを発生させるステップが2段階になっていた。これが1段階になり、恐らく、ヴォーテクスの強さの最大値は低くなるが、複雑さが軽減されるのだろう。
SF23 は、近年のフェラーリで最も素晴らしいマシンという訳ではないが、強さは持っており、チームがこのマシンの弱点を克服する方法も、非常に明確になっている。