オーストリアGP でフェルスタッペンがメルセデスに対し更に前に出る鍵となったふたつのアップグレード

出典:

www.formula1.com

 マックス・フェルスタッペンが圧倒的だったオーストリアグランプリは、シュタイアーマルクGP 優勝の再現に見えるが、彼のレッドブル RB16B は、先週末とその前の週末とで、明らかに異なるパッケージを備えていた。マーク・ヒューズが、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に、レッドブルが 2021年 F1 で最初の3連戦の最終レースを制するために持ち込んだものを解説する。

 レッドブルは、RB16B のかなり積極的な開発計画を推し進めている。ワールドチャンピオンシップでマックス・フェルスタッペンがリードを広げているにもかかわらずだ。彼がオーストリアグランプリで優勝したクルマは、7日前のシュタイアーマルクグランプリを勝ったものとは明らかに異なっている。

 日曜日のレース中、無線でバランスはどうかと尋ねられた彼は、「この新しいウィングはいい」と答えている。

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オーストリアGPでレッドブルがフェルスタッペンのクルマに持ち込んだフロントウィングの近接写真

 この発言は新型のフロントウィングを指したもので、週末に間に合ったのは彼のクルマ用のひとつだけだった。このウィングは大きく改変されたバージボードと協調して機能し、このバージボードもフェルスタッペンのクルマだけに取り付けられている。このため、パーツの製作を急いでいたのだ。

 セルジオ・ペレスディフューザーは、シュタイアーマルクグランプリでフェルスタッペンのクルマに投入されたものにアップデートされた。これは上端に沿った鋸歯のギザギザが全幅に施されたものだ。だが、ウィングとバージボードは以前のままだった。

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ペレスとフェルスタッペンのバージボード比較(共にオーストリアGPで使用されたもの)

 新しいウィングは大部分が同じで、ジオメトリが微妙に変わっているに過ぎないが、ウィング内側が更に跳ね上がり、特徴が際立っている。フラップはそこから更に隆起し、外側へ向けた落ち込みも増している。

 その落ち込みの拡大と、主翼を外側へ向け跳ね上げることで、真下により大きな気道を作り出している。

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オーストリア(下)、シュタイアーマルク(中)、モナコ(上)でのレッドブルフロントウィング比較。黄枠が大きな跳ね上げ

 ウィング自体でより大きなフロントエンドのダウンフォースを得ているので、以前よりもハイダウンフォース仕様と言えるが、高くなったフラップが車体の下へ向かう気流を制限することで、リアのアンダーフロアで発生するダウンフォースを代償にしている可能性もある。

 大きくなった気道により、フロントホイールの外側へ多くの気流が掻き出されるため、ホイールの間を抜ける気流の働きへの干渉を防ぐ効果が期待できる。この気流はバージボードが、アンダーフロアへ流れ込む気流を加速させ、その効率を高めるために利用される。

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オーストリアグランプリで改良されたフェルスタッペンのバージボードを別角度から

 バージボードにある複雑な格子状の羽根も微妙に変化しており、フェルスタッペンのクルマでは、上と下の羽根が分離した形状となっている(上図で確認可能)。

 これらの変更が合わさることで、クルマは更にダウンフォースを得ている。シュタイアーマルクとフランスグランプリでは、メルセデスを上回るレッドブルの空力性能は、同程度のコーナリング速度を出しつつ、優れたストレートラインスピードを実現していた。

 ハイダウンフォース仕様のフロントウィングの場合は、コーナリング速度を上げる一方で、ストレートラインのアドバンテージは小さくなるが、ラップタイム全体でのアドバンテージは大きくなる。

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オーストリアグランプリ予選でのレッドブルのアドバンテージ。ちなみに、レッドブルリンクで 'medium speed' としたのはターン1のみ

 古いセットアップで走ったセルジオ・ペレスは、今回の予選のスピードトラップで2番目に速く、フェルスタッペンは12番手で、4km/h 遅かった(メルセデスルイス・ハミルトンバルテリ・ボッタスはそれぞれ17番手、20番手)。

 レッドブルが空力アドバンテージをどう利用してくるかは、ここから続くサーキットごとに変化するだろうが、メルセデスに対し、レスポンス良く開発を継続している事実に比べれば、重要なことではない。