シルバーストンでマクラーレンが衝撃的なペースアップを果たした要因

出典:

www.formula1.com

 マクラーレンは、マシンに連続して投入した大きなアップグレードの効果が覿面で、先週末のイギリスグランプリでは、主役を担うこととなった。このアップグレードの第1段階は、その前の周のレッドブルリンクで投入され、サイドポッドやフロア、ディフューザーが、その見た目から大きく変わっていた...

 サイドポッドの形状を変えるには、その内部にある冷却用のコンポーネントの再設計が必要になる。一連のアップグレードの次のステップとして、シルバーストンでは、ランド・ノリスのマシンに新型のフロントウィングが搭載された。

 ウィングのエレメントは、その間隔や、ノーズ付近の形状が大きく異なっている。しかし、最も大きな変更点は、それらのエレメントのマウント方法、特にエンドプレートとの接合部にあると考えられる。

上はノリス車の新型フロントウィング、下はピアストリ車のシルバーストン仕様

 以前のウィングエレメントはどれもそのままの幅でエンドプレートと接合していたが、新型はくびれ部分が早くに始まってより尖った形状になり、気流が抜けるギャップが広がっている。このことによりアウトウォッシュを促進し、マシンの側面にかけて伸びるヴォーテクスを活性化している。また、そのギャップの上部は、小さなベーンとして機能するような形状で、橋渡しされている。

 アウトウォッシュはこのウィング改良のメインテーマであり、別の方法として、エンドプレート下部のプレート(フットプレート)と下段のエレメントとを、どれくらいの強度で固定するかによって、この気流を加速させている。ほぼ全ての F1 のフロントウィングがそうであるように、このフットプレート部も、速度が上がるに連れて大きくなる負荷に応じて下へ湾曲するよう、ある程度の柔軟性が持たされていることは間違いない。

 このことでストレートでのドラッグが軽減するとともに、速度が上がった時にウィングで生まれるダウンフォースの増加を抑えることができる。一般的に、ダウンフォースは速度の2乗に比例するが、高速コーナーではこれが面倒を引き起こす。フロントが食い付き過ぎて、リアがナーバスになってしまうのだ。

 フロントウィングを意図的にストールさせ、ダウンフォースの増加傾向を制御することで、低速域でのアンダーステアを抑えて十分な反応を残しつつ、湾曲によって高速域でのマシンの安定性を維持することができる。

新型のフロントウィングエレメントは、早い段階で上向きが始まり、より急な角度でエンドプレートと接合している。また、その上に小さなベーンが設置され、アウトウォッシュするための空間を広げている。次の図は、ノリス車のフロントウィングを、オーストリア仕様とシルバーストン仕様とで比較したもの

ノリス車のオーストリア仕様のフロントウィング(上)と、シルバーストン仕様(下)

 これはごく標準的な技法であり、レギューレーションではこの柔軟性の上限が規定されている。しかし、この新しいフットプレートと下段エレメント接合方法によって、エレメントが押し下げられた時に、このエレメントとその上のエレメントとのギャップがより大きくなる。エレメントとエンドプレートとの接合部の見直しと同様に、ここでもアウトウォッシュする気流の総量を増やしているのだ。

 アウトウォッシュをより強くすると、マシン側面を抜ける気流がより速くなり、マシンの後方でディフューザーを抜けた気流と合流するときに発生するダウンフォースが大きくなる。

 マクラーレンのアップグレードで最も効果を発揮しているのは新しいアンダーフロアだと思われるが、サイドポッドの形状変更と、フロントウィングからのアウトウォッシュの追加によって、更に性能が引き出されていると推測される。