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この前のイタリアグランプリにおいて、F1 への導入に際して物議を醸したハロデバイスが、またも称賛を受けた。今週の Tech Tuesday では、マーク・ヒューズがこのデバイスに注目する。そのコンセプト、そしてモンツァでのマックス・フェルスタッペンとの衝突時、如何にしてルイス・ハミルトンを保護したのか。
「率直に言って、今日は本当に運が良かった」と、フェルスタッペンと共にモンツァのレースを終えたハミルトンは語った。レッドブルのマシンがハミルトンのエンジンカバーに乗り上げ、そのままコクピットのハロの上にスライドしてきたのだ。「ハロに感謝しないとね。僕を、僕の首を、守ってくれた」
2018年、F1(と、FIA管轄のシングルシーターフォーミュラ)にハロが導入されるにあたり、その見た目と、シングルシーター本来の完全に露出したコクピットからの脱却という点で、否定的な意見が多かった。
しかし、これらの批判の大部分は沈黙させられた。モンツァのハミルトンだけでなく、シャルル・ルクレール(2018年のスパ)、ロマン・グロージャン(2020年のバーレーン)、そしてバルテリ・ボッタス(今年のイモラでのジョージ・ラッセルとのアクシデント。ウィリアムズがメルセデスのコクピットに衝突)の命を救ったかもしれないからだ。
昨年のバーレーンで、奇跡的な生還を果たしたグロージャンはこう語っている。「数年前、僕はハロに反対していたけど、今は F1 が導入した最も素晴らしいものだと思う。ハロが無かったら、今日ここで話をすることはできなかったよ」
構想
7年ほど前、コクピットを保護するための本格的な研究が開始された。負傷(F1 のフェリペ・マッサ)や死亡事故(F2 のヘンリー・サーティース、インディカーのジャスティン・ウィルソン)が相次ぎ、ドライバー達、とりわけジェンソン・バトンが、クラッシュによって跳ね上がったホイール、あるいはコクピットに飛んでくる他車のコンポーネントからの、更なる保護を訴え始めた。
レッドブルは、ジェット戦闘機のコクピットのようなキャノピーの開発に取り組んでいた。これは後にインディカーに導入されるものと同類だ。しかし、後にハロと呼ばれるものを考案し、2015年に発表(下図)したのはメルセデスだった。
両案は、FIA によって更なる検証が実施された。ここにはコクピットにホイールとタイヤを投げつける試験(下図)も含まれている。
検証の結果、メルセデス案の 2018年からの導入が決定した。それと並行して、2016年には、コクピットリムの試験が 15kN から 50kN へと厳しくなり、サイドプロテクションの高さが 20mm 持ち上がっている(下図)。キロニュートン(kN)とは力の単位で、1kN は、1kg を 1秒間で秒速 1m 加速するのに必要な力(訳注:kg 換算してるので誤差があります)である。
ハミルトンを救ったレギュレーション
モンツァでのハミルトンのアクシデントを見てみよう。フェルスタッペンのクルマは、メルセデスのリアウィングにダメージを与えた後、エンジンカバーに乗り上げ、コクピットのロールフープ(FIA のレギュレーションで primary roll structure と記載されているもの)に衝突し、そこからハロ(secondary roll structure)を経て、グラベルに滑り落ちて停止した。
クルマがトラックで走行する前に、それぞれのロールストラクチャが、どのようなテストをパスしなければならないのだろうか。
ロールフープに関するレギュレーション:
横方向は 50kN、縦方向は後方へ向けて 60kN、垂直方向は 90kN に相当する負荷を、負荷の方向に対して垂直な直径 200mm の面を持つ剛性パッドによって、構造体の上部に加えなければならない。テストは、ロール構造体により支えられるサバイバルセルに取り付けられた状態でおこなう。
負荷をかけた状態で、負荷方向の歪みは 25mm 未満、かつ、ロール構造体上部の変形は、垂直方向に 100mm 未満でなければならない。
ハロに関するレギュレーションは、更に厳しい:
下方向に 116kN、縦方向は後方へ向けて 46kN に相当する負荷を、C-C面から 785mm 前方、基準面から 810mm 上方、車体の中心線上の位置に加えなければならない。(中略)横から内側へ向けて 93kN、縦方向は後方へ向けて 83kN に相当する負荷を、C-C面から 590mm 前方、基準面から 790mm 上方の構造体の外枠に加えなければならない。
これらのテストは、それぞれ 3分以内の間隔でおこなわれ、負荷は少なくとも 5秒間継続し、その間、どのパートでも不合格になってはいけない。
マクラーレンのジェームス・アリソンは、ハロの概要をこう説明している。「大雑把に言うと、ハロの上に2階建てのロンドンバスを置いても大丈夫なように、シャシーの強度を設計しなくてはならない」
フェルスタッペンのクルマがハロの上に来た時、ハミルトンの頭にそのタイヤが接触したものの、ハロが車重を支えたため深刻な衝撃にはならず、ハミルトンは首を痛めただけですんだ。
安全性に関する取り組みは続いており、このモンツァのアクシデントを教訓に、更なる開発がおこなわれるのは間違いない。