2022年に見直されるサスペンションによって序列の変化は起こるのか?

出典:

www.formula1.com

 新レギュレーションではサスペンション一式が簡素化され、このめったに言及されることはないものの、マシンの挙動に大きく影響する要素に対し、ベストなデザインやパッケージは何なのか、各チームは徹底的に再評価をおこなうこととなった。

 サスペンションは空力性能を最大限に引き出すため信じられないほど複雑化してきたが、この規制は、その進行に冷水を浴びせるようなものだ。油圧制御は全面的に禁止され、車体の垂直方向の荷重を制御する大きなヒーブスプリングは、機械式でなくてはならない。

 これにより、サスペンションの性能と言うより、そのパッケージングがより難しい課題となる。機械式のヒーブスプリングは以前よりもかさばるからだ。すべてのチームが油圧式のヒーブスプリングを使っていたわけではなく、メルセデスは2年前に機械式に変更している('21年に導入される新規約に備えたもの)。

ジョルジョ・ピオラによるイラストは、メルセデスが2020年におこなった、油圧式ヒーブスプリングの機械式への変更を示している。黄線は2020年のメルセデス W11 に搭載された機械式のヒーブスプリング、右側は2019年の油圧式のもの

 また、イナーター(マクラーレンが1997年に初めて採用し、その後20年間、F1 では標準装備となった)も非合法である。イナーターとは、サスペンションの内部に組み込まれているもので、小さなフライホイールがサスペンションの動きに応じて一部のエネルギーを吸収し、タイヤによる振動のピークを緩和するのだ。これによりタイヤへの負荷は軽減し、また、より低いバネレートのスプリングを使い、低速時のメカニカルグリップ向上させることが可能となった。

 以下もまた、禁止となる:

「セルフレベリングシステム、またはフィードバックループを介した、あらゆる車高制御、あるいは変更」の禁止により、昨年のメルセデスがサスペンションで実現していた、高速走行時にマシンを押さえつけるダウンフォースが設定した閾値に達した場合、車高をより低くする機能を、非合法化としたと思われる。この働きでディフューザーをストールさせ、強力なストレートスピードが得られていた。

「サスペンションジオメトリの動きや、タイヤの外形による車高変化は、ステアリングロックの範囲内で 3mm を超えてはならない」ことにより、ステアリングのロック位置を越えてフロントサスペンションを下げ、低速コーナーでダウンフォースを得る手法が制限される。これはフェラーリが2018年に先鞭をつけ、広くコピーされたものだ。

「ホイールにかかる負荷の変動への反応として、偶発的でない非対称な応答(例えばヒステリシス、時間依存等)を示すような、遅延構造やサスペンションシステムを介したエネルギーの保存」を禁止することで、サスペンション負荷の線形的な伝達を妨げる機構を非合法化している。これにはイナーターが含まれるが、それに限るものではない。

 これらの制限に対し、メルセデスがどう対応してくるのかは、特に興味深い。彼らのフロントサスペンションには長らく、アンチロールバーに『2個のアーモンド形パーツの内部連結』という独特の構造を採用してきた。

メルセデス W10 のサスペンションシステムは、ダブルアーモンド型のアンチロールバーが特徴的だ

 ロールバーの接続方法によって挙動に非対称性が生じているのか、コーナリング時の突発的な荷重変化によるもなのかによって、認められる可能性はある。これまでは、ステアリングを急に切った際に、内側のフロントがダンバー内のバルブの挙動によって柔らかくなって持ち上がり、外側のリアが沈み込むことで、姿勢を乱すことなく縁石を乗り越えていたが、今後はどうだろうか。

 メルセデスのシステムがこのような働きをしていたとしたら、レギュレーションで謳われている以下の文言に抵触することになる。

「ヒステリシスは偶発的な状況に対しては許容されるが、本来の役割を果たす上で、応答の遅延になるようなヒステリシスを有し、利用することは許容されない。接続方法により、ロッカーから離れた位置にマウントされるサスペンションエレメントを機能させてもよいが、第10条2項6の要求事項に抵触、あるいはこれを回避するような方法は認められない。この接続は完全に固定されると共に、接続するという目的を果たすための最低限の重量とデザインでなければならない」

 第10条2項6は、次のように述べられている:「両方の車軸とも、サスペンションシステムの状態は、そのふたつのロッカーの回転と角速度によって、一意に決まらなくてはならない。相互作用やヒステリシス効果は、偶発的な場合にのみ許容される」

 サスペンションの外側のコンポーネントでは、アッパーウィッシュボーンをホイールハブから立ち上がったエクステンション(数年前にメルセデストロロッソが先鞭をつけ、標準仕様となった)にマウントし、気流への妨害を軽減する方法は、認められなくなった。ウィッシュボーンは、ホイールの直径の範囲内で接続しなければならない。

ハース VF-22 の登場は、2022年の到来を感じる最初の機会となった

 新しいレギュレーションによる別の禁止事項として、(こちらもメルセデスイノベーションだが)上段のウィッシュボーンの角度を非常に小さくして殆ど一体化させ、気流のチャネルを更に効率的に確保する手法が挙げられる。今後はウィッシュボーンは最低限の角度を持つ必要があり、これはすべて、マシンの後流による乱気流を軽減するためである。

 フロントウィングの後方、気流がフロアとラジエーターの吸気口へ分かれていくエリアは極めて重要で、ラップタイムに大きく影響する。ノーズとウィングの新たな形状と、バージボードの禁止により、各チームはここでの気流を効率化する新たな手法を見つけようと苦心している。

 ここ数年は、(内側のロッカーをノーズ上面にマウントする)プッシュロッドサスペンションが主流となっていた。プッシュロッドが障害物となることで、気流をフロアの裏側へ導いていたのだ。

 しかし今年は、何チームかがプルロッドを再導入すると考えられている。ロッカーを下部に移すことでクリアな空間を確保できる(更に重心も下がる)が、気流の方向を調整する機会は少なくなる。

フロントサスペンションにプルロッドとプッシュロッドを採用した場合の気流への影響度の違いを示した図

 引き続き、サスペンションは性能の違いを生む重要な要素であり、新しいレギュレーションでのシステムへの制限は、序列が入れ替わる要因の一つとなり得るのだ。

2022年へ向けて知っておくべきこと(公式サイト、英文)