2022年型マシンのフロアに施されているカールや波打ち処理の目的は?

出典:

www.formula1.com

 バルセロナでのシーズン前の走行では、2022年の F1 マシンを初めて確認できたが、フロアの側面エッジは非常に興味深いものだった。このエリアが重要な理由、メルセデスを始めとする何チームかが独自のアプローチを捨てない理由を、マーク・ヒューズが解説する。技術イラストはジョルジョ・ピオラの提供。

 新世代のマシンは、冷却系の配置や、それと関連するサイドポッドのデザインに様々なバリエーションが存在するため、各チームがアンダーボディのベンチュリ・トンネルの効果を最大限に引き出すための方法にも、多様性が生まれた。この違いが最も顕著に現れているのが、形状がそれぞれ大きく異なるフロアの側面エッジと、その細かい処理だ。

 サイドポッドの側面を下ってコークボトル経由でフロアの上面を抜けていく気流を加速することは、裏面のトンネルの効果を最大化するのに非常に重要だが、フロアエッジの形状は、その裏面の気流そのものを操作する。

レッドブル RB18 のフロアエッジの形状は、車体裏面を含む、周囲の気流を操作している

 フロアエッジの前端は、ベンチュリ・トンネルの入口付近が下りの傾斜になっており、フロア裏面との気圧差を増強している。

 フロア表面が露出した部分の傾斜によって気圧が高まり、フロア裏のベンチュリ・トンネルの入口付近との気圧差が大きくなる。これにより、トンネルの給気口へより多くの気流が吸い寄せられるのだ。

 許可されている4枚のフェンスのうち、最も外側の1枚によって、サイドポッド下部の側端に導かれた気流は、いくらかその勢いを失ってしまう。このため殆どのマシンでは、傾斜の後ろに、フロアエッジをなだらかに持ち上げ、また元に戻す『カール』状の処理を施している。

フェラーリのフロア側端の『カール』

 この『カール(上図)』も裏面の気流に勢いをつけるためのもので、車体を路面に引っ張る力を最大化している。

 また、一巻きではなく、メルセデス(下図)は小さな波を連続させ、フロアの側面全体に反時計回りの渦流を発生させ、後方の気流がディフューザーの低圧エリアに吸い寄せられ、パフォーマンスが低下するのを防いでいる。

ベンチュリ・トンネルの下り傾斜を形成する急激に持ち上がったフロアの前端は、上方に陽圧を発生させる。この前端にある外側のベーンは、気流をこの傾斜の角へと導き、一連の小さなカールは渦流を生成し、気流に勢いを与える

 これは、昨年のシーズン前半、メルセデス(とアストンマーティン)が採用したデザインと非常によく似ており、レギュレーションでアンダーフロアのデザイン変更があったにもかかわらず、その狙いもほぼ同じだ。

 2021年のメルセデスはシルバーストンのアップデートでこの処理を無くし、バージボードのアレンジを変えることで、アンダーフロアとサイドポッド側面に流す気流の比率を再調整した。しかし、バージボードが禁止されたため、この処理を復活させたのだ。

バルセロナの走行で、メルセデスは2021年に採用したアプローチ(挿入図)に立ち戻っていた

 バルセロナでは、過剰に機能していたように感じられた。程度の差はあれ、他のどのマシンも同じではあるが、フロアの後方があるポイントまで吸い寄せられると、裏側の気流がストールし、空力的なポーパシングが出ていたのだ。

 暫定的に小さなタイロッドでフロア後方の側端を補強(下図)すると、メルセデスは競争力のあるタイムを出すことができていた。

 バーレーンで開催される次回のプレシーズンテストに、このポーパシングの恒久的な対策が間に合うのか、興味深いところだ。

メルセデス W13 のフロア後方に取り付けられたタイロッド