ギアボックスレイアウトがポーパシング問題解決の鍵となり得るのか?

出典:

www.formula1.com

 メルセデスは依然としてポーパシング問題に悩まされており、レースで先頭を争うフェラーリレッドブルに水を開けられている。F1-75 にも、かなり深刻なポーパシングが出ていたにも関わらず、メルセデス W13 はフェラーリより概ね1秒遅く、その理由がはっきりとしない。

 アルバート・パークでは、ターン9の高速シケイン手前のストレートで、フェラーリメルセデスよりも明らかにひどくバウンシングしていた。にも関わらず、シャルル・ルクレールはポールから圧倒的な強さを発揮し、スクーデリアに優勝をもたらした。

 まず、この空力的なポーパシングは、ダウンフォースが原因で発生すること、そしてそのダウンフォースは、ラップタイムに大きく寄与することを明確にしておく必要がある。ランド・ノリスのマクラーレンは、他と比べてポーパシングが小さいが、ダウンフォースは劣っており、このことについて、彼はこう語っている。「僕たちにはそれほどポーパシングは出ていない。でも、ポーパシングが悪いこととは限らないんだ。マシンによっては、ポーパシングの原因となることからパフォーマンスを得ているものもある」

 ノリスはラップタイムを短縮できるなら、間違いなく乗り心地を犠牲にするだろう。

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各マシンのポーパシングの大きさを示すグラフ。フェラーリはオーストラリアGPで、1.4Gものポーパシングに見舞われていたが、ライバルに対して大きくラップタイムを失うことはなかった

 メルセデスのポーパシングと、フェラーリのポーパシングとの違いで重要なのは、メルセデスの方が、フェラーリよりも低速域で発生していることだ。もしその速度でコーナーを抜けるのであれば、チームは車高を上げなければならない。

 これによりポーパシングが発生する速度が変わり、コーナーをバウンス・フリーで抜けられるが、同時にダウンフォースは減少する。これは、マシンが本来持つダウンフォース量を制限してしまうことになる。

 フェラーリのポーパシングは、最速のコーナーを抜ける速度を超えてから発生していた。ストレートエンドの高速域でのポーパシングを抑えることもできるが、それではコーナー(とブレーキング)でダウンフォースが少なくなってしまう。

 ルクレールはオーストラリアで、このことに少し触れている。「一貫性に影響を与えることだから、取り組む必要がある。でも、バウンシングが出なかったら速く走れるかっていうと、そうでもないんだ。これが問題になったのは、リスタートの1回だけだった。バウンシングが出てたから、ターン1へのハードブレーキングに自信が持てなかったんだ。その時以外は、問題なかったよ」

 メルセデスの問題も、バウンシングというわけではない。コーナリング中にそれを回避するために、ダウンフォース量を妥協していることなのだ。

 以上を踏まえ、原因を探るとなると、技術面では推測の域に入らざるを得ない。メルセデスパワーユニットを使う、メルセデスマクラーレンアストンマーティン、そしてウィリアムズの4チームが揃って苦戦しており、注目を集めてきた。メルセデスフェラーリから約1秒遅れ、マクラーレンはそこから更に(平均して)0.5秒後方、アルピーヌから0.2秒遅れぐらいの位置をうろうろしている。アストンマーティンとウィリアムズに至っては、最後尾である。

 しかし、GPSデータを分析すると、メルセデスパワーユニットは、フェラーリに比べてやや劣る程度で、ラップタイムにすると約0.15秒の損失に過ぎない。メルセデスですら1秒遅れていることを考えると、パワーユニットが、これらのチームの低調なパフォーマンスの主犯であるとは言い難い。

 そこでメルセデス製の PU とギヤボックスを使う3チームに絞って(マクラーレンを除外して)考えてみると、そこに相関関係と、深刻なポーパシング問題が見えてくる。

 相関関係と因果関係は必ずしも同じではないが、アストンマーティンとウィリアムズは、ポーパシングを回避するために車高を上げる必要さえなければ、パフォーマンスを大きく上げることができると確信している。

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デザインの大きな違いが、メルセデスの悩みのタネかもしれない

 なぜギアボックスが原因となり得るのか? ギアボックス・ケーシングの長さには、チームがマシンのメカニカルコンポーネントをどのようにまとめ上げているかが反映される。メルセデス、ウィリアムズ、アストンを見てみると、他のマシンよりも、サイドポッドとフロアの吸気口が後方に配置されている。こうしてフロントホイールとサイドポッドとの間隔を最大化しており、これは空力的に有利だとされてきた。

 しかし、ホイールベースが制限された現行のレギュレーション下において、このラジエータと補機類を後方寄りにまとめる手法の場合は、ギアボックス・ケーシングが短くなる。(同じ PU とギアボックスを使っている)フェラーリとハースは、サイドポッドが前方にあり、冷却系の機器も前方に配置されている。このことでサイドポッドは大きく、前方に張り出す形になるが、リアのボディワークをより大胆に絞り込むことができる。

 上から見ると、メルセデス、ウィリアムズ、及びアストンマーティン(下図)よりも、涙滴型になっていることが分かる。

 この点に関して、レッドブルとアルファタウリは、メルセデスよりもかなりフェラーリに似た構成をしている。サイドポッドの膨らみは前方から始まり早々に収束し、ホイールベース内に長めのギアボックス・ケーシングを確保している。

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メルセデス搭載のアストンマーティン(上)と、ハース(下)を上から見たところ。フェラーリを搭載するマシンは涙滴型で、冷却系の機器類が前の方に配置されている

 これがポーパシングにどう関係するのか? 少なくとも、以下のふたつの可能性がある。

  1. リアが幅広のボディワークでは、アンダーボディの気流が制限される可能性がある。より涙滴型に近いのボディワークの場合は、アンダーボディがストールしにくくなるように、ディフューザーの上の気流を導くことができる。
  2. ストールする位置とマシンの重心との位置関係は、バウンシングの深刻さに影響する可能性がある。短いギアボックスレイアウトの場合は、アンダーボディがストールする位置に対し、重心が良くない位置にあり、テコのような作用をしているかもしれない。

 これらは推測の域を出るものではなく、事実は全く異なるかもしれないことは、強調しておく。しかし、同じレイアウトを持つ3台のマシンが、バウンシング問題を抱えているという相関関係には、何か引っ掛かるものがある。